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MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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STAR WARS RISE OF KYLO REN【2023年4月の私的ベストアメコミ】

EP7〜EP9、いわゆる続三部作(シークエル)を代表するキャラの1人に、カイロ・レンが挙げられるでしょう。賛否両論ある三部作ではありますが、「自分が何者かは自分が決める」というテーマを象徴するキャラクターです。銀河内戦の英雄が両親で祖父はダース・ベイダーという異色の系譜に苦悩するカイロ・レンの姿に惹かれた方も多いはず。何故カイロ・レンは元々のアイデンティティであったベン・ソロを捨てたのでしょうか? 映画本編では描ききれなかったエピソードを本作は十二分に補強しています。如何にしてカイロ・レンは生まれたのか? その誕生秘話は、かつて銀河を恐怖に陥れたかの暗黒卿を彷彿とさせる悲劇の物語でした。
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関連作品

 

〈あらすじ〉

遠い昔、はるかかなたの銀河系で……

銀河帝国が滅び、アナキン・スカイウォーカーの手でフォースにバランスがもたらされてから幾年もの月日が流れた。最後のジェダイとなったルークは、再びジェダイ騎士団を創設するため自ら学んだことを伝道していた。

ベン・ソロは苦悩していた。銀河内戦の英雄を親に持ち、ダース・ベイダーを祖父に持つその血はフォースの光と影の狭間に揺れていたのだ。

燃えるジェダイ寺院、灰になりつつある友人、自分の居場所さえ分からなくなったベン・ソロは、師を裏切り銀河へ飛び出す。ライトセイバーを血に染める覚悟も無いまま……

 

〈誰かの影〉

ベン・ソロは目の前の光景に立ち尽くしていました。炎に包まれるジェダイ寺院に黒焦げになった友の亡骸。日々を過ごした景色が破壊される様に呆然とするしかありませんでした。こんなはずじゃなかった。打ち砕かれる希望を前に初めて噛み締める絶望の味は、顔を歪ませたくなるほど苦く、しかしどこか刺激的でした。立ち尽くすベンの元へ、別の惑星から帰ってきた友人たちが駆け寄ります。しかしベンは誰も信じられないほど混乱していました。それもそのはず、ジェダイ寺院が燃える直前、ベンは師であるはずのルークに寝込みを襲われたのですから。今の自分が何者かさえ見失いつつあるベンは、友人達の心配する声に反発、ライトセイバーを向けて逃げるようにその場を去りました。師匠に裏切られたのならばここにいる理由はない。追いかける友人を振り切り向かったのは、スノークのいる惑星でした。
f:id:ELEKINGPIT:20230406215346j:image友人を傷つけ、未だ混乱しながらその場を去るベン。まるで己の弱さを隠すかのように刃を突き立て続ける。

 

悩めるベンに、スノークは暖かい言葉で迎えます。これからどうすべきか、自分を見失おうとさえいるベンへスノークは助言を与えます。自分が誰かを決めるのは自分自身であると。ベンはハッとしたように語り始めます。自分の名前は、かつて両親が世話になったという伝説のジェダイ、オビ=ワン・ケノービの偽名が由来だと。そして父から受け継いだソロの名も元々は偽名です。自分は最初から何者でもなく、自分以外の「他人」になることを期待されていた。ベン・ソロは生まれた時から「誰か」になることを望まれた人生だったと振り返ります。ならば何者かではなく、自分になればいい。スノークの言葉にベンが思いついたのは、レン騎士団の存在でした。それは数年前、かつてルークと共にジェダイの遺産を探していた時に襲撃した暗黒面のフォースの使い手です。当時はルークが難なく退けたのですが、その記憶は強烈に焼き付いていました。両親は銀河内戦の英雄で、祖父はダース・ベイダー。自らの血はライトサイドとダークサイドが半分ずつ流れている。そう考えたベンはレン騎士団に接触しようと考えます。
f:id:ELEKINGPIT:20230407203547j:imageレン騎士団と戦うルーク。明暗双方のフォースが入り乱れる中、ベンは暗黒の力に魅入られつつあった。

 

数日後、ベンはレン騎士団の元を訪ねていました。強力なフォースの使い手であるベンをレン騎士団も歓迎します。しかし入団の条件は、「相応しい死」をもたらした者のみ。ここでベンは、ヘニックスの死について話します。ヘニックスは、燃え盛るジェダイ寺院から飛び去ったベンを追いかけた3人の友人の1人で、ルークのパダワンでした。レン騎士団を訪ねる途中に追いついた3人はベンとライトセイバーを激しくぶつけ合います。ベンの中で怒りと理性が交錯する中、へニックスは自らの刃が当たり倒れてしまいました。親しかった仲間の死に動揺したベンは再び逃げるようにその場を去ったのです。事実上、ベンが初めて人を殺したことにレン騎士団は何度も頷きます。そしてベンに3人とどのような関係だったのか、どれほど親しかったのか尋ねました。3人のうち最も武闘派だったヴォーは、フォースと強い繋がりを持つベンに嫉妬と深い憧れを抱いていました。事ある毎に勝負を挑み、その度に負け続けていたとベンは語ります。しかしその戦闘力は決して侮れるものではありません。そして先日死んだへニックスは、フォースがもたらす知識に深い関心を抱いていました。戦闘は得意ではありませんが、柔軟な思考と地道な努力で確かな研究を成し遂げます。ヴォーが武闘派、へニックスは頭脳派、ならば最後のタイは? ベンはタイに突出した特徴はなかったと言います。しかしタイは、以前自分のアイデンティティに悩むベンへ「誰かではなく自分自身のなりたい姿になるといい」とアドバイスを送った過去があります。ベンにとって最も心を許したのはタイでした。レン騎士団はベンの話を満足気に聞き、特例として入団を認めます。強いフォースの使い手を逃したくはなかったのです。
f:id:ELEKINGPIT:20230407215437j:image同じ師の元で高めあった3人の友。しかし今や、刃を交える仲となってしまった。

 

レン騎士団に入団したベンは様々なフォースの技で大きく貢献します。しかし人を殺すことにはまだまだ躊躇いがある様子。未だベンは非情になり切れていなかったのです。そしてある惑星を襲撃していた時、再びヴォーとタイに出会います。2人は死んだへニックスのためにもベンを連れ戻そうと、それが叶わなければここで殺すことさえ覚悟してライトセイバーを起動しました。ヴォーはレン騎士団と、そしてタイはベンと戦いを始めます。タイもヴォーも覚悟を決めた刃に迷いはなく、以前よりも飛躍的に成長していました。それはタイの太刀筋にベンが苦戦するほど。それでもベンは天才的なセンスの持ち主です。一瞬の隙を容赦なく狙い、あっという間にライトセイバーを奪い勝利します。降参したタイはベンがもう耳を貸すことは無いと悟り自らの首を差し出しました。しかしベンは刃を振り上げることができません。その時でした。突然タイの首がぐりんと曲がり、倒れ伏します。レン騎士団がフォースで首を捻り殺したのです。最も親しかった者の死に、ベンは激昴します。背筋が冷たくなるようなドス黒いフォースが迸り、ベンはレン騎士団の団長へ斬りかかりました。強大すぎるフォースが暗黒面へと向かう様を銀河中のフォースユーザーが感じ取ります。悲しみが、怒りが、ベン・ソロを闇の向こう側へと誘い出します。ダース・ベイダーの血を継ぐ者は、こうして修羅へと変貌したのです。
f:id:ELEKINGPIT:20230407222452j:image震え上がるほどのフォースを纏い復讐を遂げたベン。「なりたい自分になれ」と助言した友の刃を振るい、カイロ・レンが生まれた。

 

〈血塗られた刃〉

ベンが暗黒面に落ちる経緯が描かれた本作。自らのアイデンティティを掴もうと必死だったベンを、スノークたちが言葉巧みに闇へと導いてしまいました。殺人に対して躊躇していたベンは、映画本編ではカイロ・レンとして容赦なくハン・ソロを殺し、また怒り狂う姿が描かれます。しかしベンは本当に闇へと堕ちてしまったのでしょうか? それともアナキン・スカイウォーカーのように、一度闇に飲まれてしまったのでしょうか?

結論から言うと、私はまだ闇に堕ちてはいないと考えています。レン騎士団の団長を殺し、自らがレン騎士団団長のカイロ・レンとなったベン。それは自らが探し続けていたアイデンティティの獲得に他なりません。しかしそのアイデンティティを維持するのは、ダークサイドを信奉する必要があります。つまりベンはダース・ベイダーのようになり続けることでアイデンティティを保とうとしたのです。自分が自分であるために、ベンは「カイロ・レン」を演じていたのではないでしょうか? その証拠こそがカイロ・レンのライトセイバーです。カイロ・レンのライトセイバーは、ご存知の通り起動すると逆十字のような形となります。刃は揺らめきどこか不安定のようにも見えるライトセイバー。それはカイロ・レンが未熟であることの象徴でした。(恐らくタイの)カイバークリスタルにフォースを流し血を吐かせたものですが、かつてのダース・ベイダーさえ苦戦した「儀式」をカイロ・レンは失敗することなく成し遂げます。ところが結果できたのは未熟なライトセイバー。カイロ・レンの暗黒面のフォースは熟達していなかったのです。ようやく見つけたアイデンティティを喪失しないためカイロ・レンとなったベン。しかし暗黒面のフォースは未塾で、後のEP7ではレイにさえフォースで押し負けています。突出した才能を持っていたはずのベンがレイに負けてしまったのは、未だベンが暗黒面に落ち切っておらず、カイロ・レンを演じていたに過ぎないからかもしれません。