アメコミを読みたいらいとか

MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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SNOW ANGEL season one

日本の漫画作品が少年漫画だけじゃないように、アメコミもヒーローコミック以外にも無数のジャンルが存在します。決してメジャーではありませんが、その中には当然名作もあるのです。今回はコミクソロジーオリジナル作品の1つを紹介したいと思います。こうしたインディーズ作品は、図書館を冒険して何となく手に取った1冊を読んでいるようで普段のヒーローコミックとは違う楽しみも。これまでヒーローコミックを読んできた方も、アメコミ未読の方も、この機会に是非読んでみてはいかがでしょうか?
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Snow Angels Season One (comiXology Originals)

Snow Angels Season One (comiXology Originals)

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〈あらすじ〉

ミリケンとマエマエは、極寒の大雪原を真っ二つに割ったような巨大な堀の中、父と共に過酷な毎日を生活していた。しかしある日、堀の掟を破った時に現れる恐るべきスノーマンが3人を襲撃する。生き抜くため果てしない堀を進む3人だが、振り切るには父の忌むべき過去に向き合わねばならなかった。

 

〈死ぬために生き抜く〉

人が堀の中で生活するようになって、どれほどの月日が流れたでしょう。ミリケンとマエマエは父に連れられ、銀世界を一直線に進む大きな堀の中を歩いていました。僅かな資源を頼りに頬を叩く吹雪の中を歩く一行。12歳の誕生日を迎えたマエマエに、ミリケンは胸の中で言葉にできないモヤっとした感情を抱いていました。ミリケンが4歳の時、母はマエマエを産んだ時に亡くなったのです。母の記憶はぼんやりとしかなく、母と引き換えに生まれたようなマエマエには何の咎もないと分かっていながらも何気ない一言に思わず突っかかってしまうばかりでした。いつも父はそれを宥め優しく接するが3人の日常となっています。そんな堀の中の生活にも、絶対に破ってはならない3つの掟がありました。堀の外へ出ないこと。堀が全てを与えてくれること。堀には果てがないこと。中でも堀の外へ出ようとすると、スノーマンと呼ばれる存在が襲いかかると伝えられています。ミリケンもマエマエもおとぎ話の怪物だと信じていますが、この3つの掟には何度も救われており、寝る前に諳んじることさえ出来るほどです。これら3つの掟を遵守しながら、3人は過酷な日々を平和に暮らしていました。
f:id:ELEKINGPIT:20230402204814j:image過酷な堀の中を進む3人。その絆は掟と同じように堅く揺るがない。

 

それから数日後。3人は堀の中で集落を見つけました。しかし異様な静けさが3人の足を竦ませます。黒くなりつつある血溜まり、どれだけ探しても全く感じられない人の気配。答えはすぐに見つかりました。あちこちに死体の山が転がっていたのです。震えるマエマエ。2人を制止して父が集落の様子を探ることに。ここで何があったのか? 答えは父の姿が見えなくなった直後に分かります。スノーマンです。スノーマンが現れたのです。ガタガタと震え、静かに泣き始めるマエマエとそれを抑えるミリケン。父の姿はまだ見えません。2人は咄嗟に死体の山へ隠れ、何とかやり過ごしました。スノーマンはおとぎ話の存在じゃなかった。もしかしたらスノーマンは自分たちを狙っているかもしれない。でも何故? 考えている時間はありません。スノーマンが北へ向かったことを見計らい、3人は亡き母の遺した地図を頼りに南へ進路をとります。南は熊のいる雑木林があり、人もほとんど寄り付かない危険な道。それでも生き残るには前人未到の堀まで到達し、スノーマンを振り切らねばならないのです。
f:id:ELEKINGPIT:20230402235749j:imageマエマエとミリケンの前に現れたスノーマン。掟を破った者を罰する死刑執行人は、架空の存在ではなかった。

 

決して楽な道のりではありませんでした。熊と遭遇した父は片足を噛まれ重傷を負い、途中スノーマンに追いつかれ決死の作戦で何とかその場は追い払ったり、少しのミスで命を落としかねない危険な状況が何度も連続しました。それでも3人は協力し、南へと進み続けます。しばらく後、3人は驚くべきものを発見しました。そこには巨大な重機と堀の壁、端があったのです。掟によれば堀は果てなく続くもので、端などなかったはず。では眼前に広がる壁と動かない重機は何なのか? 尽きない疑問を考える暇はありません。なんとスノーマンがここまで追いかけてきたのです。ミリケンとマエマエを逃した父は、負傷した体で一騎打ちに持ち込みます。何故スノーマンはこれほど執拗に追いかけてくるのか? 私達は掟を1つも破っていないのに? 答えは意外なところから現れました。一騎打ちが終わったのです。スノーマンに手傷を負わせながら敗れた父は、最後に自分の子供達へ懺悔を始めます。それはミリケンが生まれるずっと前、父は親友と親友のパートナーと共に堀の中で生活していました。しかし父は親友のパートナーへ日に日に好意を抱いてしまいます。やがて3人は堀の外の世界へ出ていこうと考えました。しかし堀の外は吹雪に晒された雪景色が広がるのみ。しばしの月日が経った後、堀の中へ2人が戻ってきます。父と親友のパートナーだけが帰ってきたのです。親友は結局帰ってこず、やがて2人は結婚。ミリケンとマエマエが産まれました。若かりし頃に破った掟がこのような形で帰ってくるとは。父は体からズルズルと抜けていく力を振り絞り、2人へ聞かせます。これからも協力して生きるように。
f:id:ELEKINGPIT:20230403002921j:image雪ばかりの世界で鮮明に流れる赤い血。死ぬまで一緒にいると誓った父は、2人を残して母の元へ帰った。

 

〈生きるために死にゆく〉

雪原の堀を過酷に生きる3人の物語。それゆえか今作は「あの世」「魂」の話が何度も語られていました。特に最年少で12歳のマエマエはその考えを大切にしており、父を尊敬するのと同じように尊重していました。何故3人は過酷な堀の中を生きていたのか? その根底に流れる独自の哲学を考えたいと思います。

堀の中に住む人々は、亡くなると堀の地下に流れる海原へ死体を埋葬される習慣があります。水はあの世とこの世を隔てるものであり、この水を介してあの世と繋がっているのです。水の中には魚以外にコールデンと呼ばれる存在が住んでおり、埋葬された人々をあの世へと運ぶ役割を担っています。そのためコールデンは常に堀の中の人々を見守り、良き人生を送った人はコールデンの手で死者の住む天国のような場所へ連れられるのです。やはり根底に流れるのは、我々と同じ「良く生きること」のよう。しかし我々と異なるのは、死んでも堀の世界から脱せないということでしょう。死ねば空へ召されるわけでも堀の外へ連れられるのでもなく、水を介して堀と繋がる世界へと行くのです。ミリケンの「堀の中で生まれて堀の中で死ぬ」というセリフはまさにこれらを表しているようです。そのため、人々は死ぬ瞬間のために今を生きてるようなもの。死ぬために生き抜くのです。