アメコミを読みたいらいとか

MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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ULTIMATE X-MEN vol2 RETURN TO WEAPON X

マグニートーを倒し、初陣にしてその名を全米に知らしめたX-Men。大筋は王道なストーリーでしたが、ミュータントに対する差別意識が色濃く描き出されていました。ミュータントの社会的地位を向上させながら、まだまだ課題は山積していると言えるでしょう。そして本作は、ミュータント差別の闇の中の闇、ウェポンXに光が当てられます。ハイティーンになったばかりのX-Menに向けられる凄惨な現実。過酷すぎる事実ですが、現実にもリンクする部分も多く、私も改めて人種差別について考える機会を得た作品です。

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〈あらすじ〉

マグニートーから大統領を救出し、一躍有名になったX-Men。ミュータントの社会的地位向上にも貢献したが、一方でそれをよく思わない者もいた。ミュータントの生物兵器化を企むレイス大佐は、非倫理的な禁断の計画を再始動させる。

 

〈より優れた人類として〉

ミュータントによる未曾有のテロを解決したX-Men。その名は全米、そして世界中にまで知れ渡るようになります。日本ではトークショー番組に出演し、多くの人々からサインを求められるようになるほど。大統領もミュータントへの態度を軟化させ、X-Menに厚い信頼を置くようになっていました。まさに順風満帆。一方ウルヴァリンはエグゼビアと協力し、かつてのウェポンX跡地を訪れていました。ウェポンXとは、能力を発現させたばかりの若いミュータントを拉致、洗脳し、軍事利用を目的に人体実験を行う狂気の計画です。かつてウルヴァリンはウェポンXの実験体として従事しており、それ以前の記憶を失うほどの強烈な体験をしてきました。ウルヴァリンX-Menに参加したのは、そんなウェポンXを壊滅させるためなのです。ところがどれほど捜索しても痕跡1つ見つかりませんでした。僅かな記憶を頼りに探し続けるウルヴァリン。同刻、エグゼビアの学園では異常事態が発生していました。爆炎で視界が遮られ、パニックに陥る学園。銃弾が放たれる混沌の中、X-Menの奮戦も虚しく次々と敗れてしまいます。
f:id:ELEKINGPIT:20230426130412j:image燃え上がる学園。突如襲撃してきた犯人の正体は、最も恐るべき敵だった。

 

目を覚ますと、そこはまるで監獄のような場所でした。2人で1つの檻を使っているようで、隣には同じくX-Menの仲間が、向かい側にはミュータントであろう2人組がいました。2人はローグ、ジャガーノートを名乗ります。そしてスコットとジーンの檻にはグッタリと疲れ果てたドイツ人のミュータントが。年は同じくらいの青年で。ジーンによると、ナイトクローラーという名前なのだそう。ここにいる全員はレイス大佐による禁断の計画、ウェポンXの被験者です。X-Menも名前は聞いたことがある様子ですが、既に想像を上回る劣悪さに気丈さを装うだけで精一杯。ティーンエイジャーには過酷すぎる環境です。しばらくすると、X-Menは1人1人連れ出してどのような能力なのか改めてテストを開始。能力を限界まで引き出させ、身も心も満身創痍で牢屋へと戻されます。中でもビーストのテストは凄惨を極めたのか、能力が強化された代わりに地毛や肌が文字通り真っ青になったではありませんか。テストが一通り完了すると、今度は危険度の高い任務に従事させられます。X-Menの体には制御装置が埋め込まれており、命令から少しでも逸脱すれば装置を起動させその場で殺すことさえ可能だというのです。明日には死ぬかもしれない。そんな言葉にもできない重すぎるストレスが若きミュータントたちにのしかかります。あまりにも非道なウェポンX計画は、司令官であるレイス大佐の部下でさえ反対する程でした。しかしレイス大佐は自信たっぷりです。なぜなら捕らえたエグゼビア教授の能力を駆使すれば、世界中の人間を洗脳、いくらでも誤魔化すどころか「常識」さえ変えてしまうのも可能でしょう。
f:id:ELEKINGPIT:20230427013629j:image囚われたエグゼビア。その力があれば世界さえ手中に納めることだって容易だろう。

 

いつ死ぬか分からないほど過酷な生活を送るX-Men。仲間内での励まし合う声も段々と小さくなります。数日後、監獄さえ揺れるような大きな振動が。原因は、誰もが予想外のものでした。なんとブラザーフッドが現れたのです。マグニートーを失った後もその理念を受け継ぎ、現在まで活動していたのです。ブラザーフッドX-Menが連れ去られたという噂を頼りに、やっとX-Menを発見したのです。当然、制御装置のコントローラーも強奪済み。これでX-Menは思う存分暴れられます。エグゼビアを取り戻し、ウェポンXの施設全体が焼き払われつつある時。ストームはレイス大佐を殺そうと動き出します。しかしそれに誰もが反対。もしここで他人を殺そうとものなら、それこそレイス大佐のような醜悪な人間と変わらない。しかし我々はホモ・スーペリア。人間よりも優れた種族なのだ。無闇に人を殺すなんてホモ・サピエンスと同じマネはすべきでない。その言葉にストームは立ち止まります。首肯するブラザーフッド。人間ではないからこそ、人間のように安易な答えを求めない。そう気付いた時、ストームもレイス大佐を攻撃しようとはしませんでした。司令官さえ捕まりかけ、施設は燃え、元々反対の声が大きかったウェポンXはこうして完全に潰えることもなります。
f:id:ELEKINGPIT:20230427024959j:imageウェポンX壊滅のために動いたX-Menブラザーフッドの連合軍。ミュータントの危機にチームの垣根は簡単に取り払われた。

 

〈ミュータントとして〉

強烈な差別描写が印象的な本作。しかしこれらが決して大袈裟とは言いきれない部分もあるのが煮え切らないところです。日本もアメリカも、多くの国々は他国の人々やマイノリティへ想像も絶する地獄を強いた経験があるはずなのです。例えばアメリカでは黒人にそれとは知らせず病気に関する実験を行ったことがあります。X-Menの下敷きに公民権運動があったことは有名な話ですが、今作のような差別描写も決して現実と比べて突拍子もない、盛りすぎなどということは決してないのです。そしてX-Menは、そんな被差別者へ勇気と立ち振る舞いを教えてくれているように思えました。被差別者はその経歴から、別の場所へ移っても差別されるか、「可哀想」という目を向けられがちです。しかしそんなものは全て突っぱねてしまえと今作のX-Menは言います。恐らくこれからもX-Menには多くの試練が降りかかるでしょう。しかしそれでも、己を強く保つことが大事なのです。今作のようなX-Menもまた、互いを励まし合うことで多くの試練を力強く乗り越えていきました。最後にはミュータントとして人間のような真似はしないとまで宣言。己を強く保ってとるからこそ出来ることでしょう。過酷な試練も仲間と共に己を強く保つことで、乗り越えることが可能なのです。