アメコミを読みたいらいとか

MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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IRON MAN REMOTE CONTROL【2023年3月の私的ベストアメコミ】

大富豪にして発明家のトニー。地雷で負傷し、アイアンマンとなって以来の物語は既に多くが語られており、以降も紡がれ続けるでしょう。しかしそれ以前のトニーが描かれることは決して多くありません。今作はそんな若き日のトニーの幼なじみが登場。トニーの学生時代を垣間見る貴重な作品となっています。
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〈あらすじ〉

学生時代の親友、ティベリウス・ストーンと運命的な再開を果たしたトニー。青春を取り戻すように再び親交を深めようとするが、その裏ではスターク社を貶める史上最大の罠が隠されていた!

 

〈アイアンマンを超えて〉

アメリカの大富豪ランキングが発表されました。誰もが例年通りトニーこそ1位だと確信していましたが、なんと今年は2位に陥落。それまで富豪ランキングに名を連ねたことすらない人物が1位になっていました。これにスターク社は大騒ぎ。ランキングの結果はあっという間にトニーの耳にまで届きました。ところがトニーは満足そうにほくそ笑んだではありませんか。ティベリウス・ストーン。富豪ランキングの1位になった人物は、学生時代トニーと切磋琢磨した親友だったのです。勉強もスポーツも、異性からアプローチされる数さえトニーが1番でストーンは2位。互いに競い合うライバルとして、2人は大学生まで親しく来ていました。しかしある日、ストーンはイギリスへ留学することに。以来手紙でやり取りしていましたが、やがて疎遠となってしまいました。そんなストーンがアメリカに帰ってきており、しかも自分を超えるほどの大富豪になったのです。喜ばないはずがありません。ストーンもトニーとの再会を心待ちにしているのか、記念パーティの招待状が届いていました。ストーンはマスコミなどのメディア関連で富を築いており、メディア王と呼ぶ人もいるほど。その富を象徴するかのようにパーティでは名だたる大富豪が集結していました。
f:id:ELEKINGPIT:20230308232145j:imageストーンの主催するパーティ。華々しいこの催しは、ストーンの富を表すようだった。

 

数日後、事態は急変します。数週間前に戦ったウィップラッシュが死亡、アイアンマンが原因だとマスコミ各社が報じたのです。当然この報道はガセネタなのですが、瞬く間に拡散し続け批判記事は数え切れないほど作られてしまいました。なんとこれらの偽情報は、ストーンが流しているというではありませんか。何故親友がこんなことを? ストーンは「確かな情報源がある」と譲りません。精神的にトニーを追い詰める「嫌がらせ」は続きます。何者かがストーンを手引きしているか操っているのか? とさえ疑いたくなってしまうほど。そんな時、トニーの元をある人物が訪ねます。イギリスへ留学したストーンを手助けし、かつてはトニーへ刃を向けたこともある因縁のトレバー・ドナヒューです。ドナヒューへ警戒するトニーですが、どうやら敵意はない様子。ドナヒューはストーンの真実を語ろうとしていたのでした。それはトニー達が学生の頃まで遡ります。ストーンの両親は商才溢れる人物で、努力家でもありました。そのおかげで自身の立ち上げた会社はメキメキと成長し、遂にはハワード・スタークにまで目を付けられるほど頭角を現します。これが不幸の始まりでした。ハワードはビジネス上脅威と判断した者へは一切容赦しません。なんとストーンの両親を事故に見せかけて殺したとドナヒューは言います。なんということでしょう。ストーンはその時から積もり積もった恨みを抱えていたのです。全てを知ったトニーは、もう1度ストーンへ会う覚悟を決めました。
f:id:ELEKINGPIT:20230309013618j:imageストーンを説得しようとするトニー。しかし積年の憎悪は簡単に止められるものではなかった。

 

トニーを待っていたストーンは、最早恨みを隠そうともしませんでした。トニーの説得にも耳を貸さず、それどころかこの場で決着をつけようとさえしているようです。ストーンは優秀な科学者でもありました。そんなストーンの代名詞的な発明が、リアルタイムで夢を共有するVRシステム。これは任意で夢の内容を切り替えることも可能で、高い注目を集めていました。ストーンは隙をついてトニーをこの装置に繋げることに成功。脳を通じてトニーの記憶を読み取り、トラウマを見せて錯乱させようと企みます。驚くべきことにトニー・スタークの正体はアイアンマンだと分かりましたが、それ以上に多くの苦難を経験していたことも判明。なるほどこれらを見せれば精神を大きく揺さぶることが出来そうです。瓶の中の悪魔に屈服した記憶、会社を失いホームレスになった記憶、背骨を負傷して一生歩けないと宣告された記憶、そして身体中にアルコールが巡るような、酩酊させた感覚を与えます。夢の中でどうにかアーマーを纏ったトニーですが、畳み掛けるような精神攻撃に何も出来ず涙さえ流す場面も。このままトニーは倒されてしまうのでしょうか? いいえ、これらの苦難は全てトニーが「乗り越えてきた」こと。項垂れ倒れることはあっても、必ず立ち上がり決して屈することはありません。この鋼の精神は、やがて夢にも作用し始めます。ストーンのみが操っていた夢世界を、トニーも少しずつ操れるようになったのです。トニーの潜在意識がこの夢に作用しつつあるのでしょう。ならば対策を立てられていない今こそ勝機。夢の中で、2人の精神が激しくぶつかり合います。
f:id:ELEKINGPIT:20230309020004j:image衝突しあう2人の精神。最後に膝をつき屈したのはストーンの方だった。

 

〈トニー・スタークとして〉

トニーの親友が牙を向いた今作。実はアイアンマンの戦闘は僅かしか描かれておらず、その戦闘もほとんど本筋には関係ないものでさた。本作を読んだ方なら自明でしょう。ストーンと戦うのはアイアンマンではなくトニーでなければなりませんでした。トニーだからこそ勝てたと言い換えてもいいかもしれません。

さて、ストーンとトニーの関係性は学友でありライバルだったと説明されます。いつも1番だったトニーの背中をストーンが追い続け、親友同士切磋琢磨しあうようになったと。ところがこの関係性はストーンがアメリカでトップの大富豪となったことで逆転します。以来トニーへの精神攻撃が始まったのです。この時、ストーンは鎧を持ちトニーは丸裸にされた構図だと言えます。ストーンはマスコミを使ってトニーを攻撃し、一方マスコミを盾に使えるのです。一方トニーはマスコミの批判を否定するしかなく、それも焼け石に水状態でした。そして世間ではウィップラッシュ殺害という「事実」を告発したストーンがヒーローに、隠していたアイアンマンとトニーはヴィランとして扱われます。本作はストーンが富豪ランキングのトップになって以来、トニーとストーンの関係をそのまま逆転させたような展開が続いていたのです。つまりトニーはこれを元に戻す戦いをしていたのでした。そのためストーンに勝つにはアイアンマンではなくトニーでなくてはならなかったのです。まるでそれを表すかのように、夢の中でストーンは鎧を纏いトニーのアーマーを破壊していました。では何故トニーはストーンに勝てたのでしょうか? ストーンとトニーの関係が逆転して以来負け続けていましたが、何が勝利の鍵になったのでしょうか? 劇中のトニーの眼差しを見るとよく分かります。トニーは当初、「何故ストーンがこんなことを?」と動揺し、真相を知ったあとはショックからぐらついているようにさえ見えました。しかしストーンが放った、トラウマを見せる攻撃が逆転の一手に繋がります。トニーにとっては文字通り悪夢で、涙を流すほど苦しんだ過去。しかしそれらをもう1度乗り越えることで、鋼鉄の精神に磨きをかけたのです。動揺もショックも悪夢さえも乗り越え、トニーは鋼鉄の人間としてストーンに立ち向かうことが出来ました。これも先程と同様に、夢に干渉出来るようになったのはアーマーが夢の中で破壊された直後からです。親友の凶行に、アイアンマンではなくトニー・スタークとして立ち向かったトニー。その心には新たな傷が増えたことでしょう。しかしこの傷がトニーへより強固な鋼の意思を与えるのです。