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MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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IRON MAN EXECUTE PROGRAM【2023年10月私的ベストアメコミ】

21世紀初頭は、今なお続くIT革命の源流となった時期でした。インターネットの普及が進み、携帯電話を当たり前のように持ち始め、身の回りの生活がそれまでと大きく変わったという方は多いのではないでしょうか? 100年先を行くと呼ばれたトニーも、自身を一変させる革命が起きます。エクストリミスです。エクストリミスに適合したトニーはそれまでよりも大幅に出来ることが増えました。では、出来ることが増えたトニーが最初に始めたこととは? テクノロジーの極限の先へ行き着いたトニーが目指したものは、世界平和でした。

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〈あらすじ〉

エクストリミスに適合したトニーは、あらゆる機械を遠隔で操る能力を手に入れた。一方、世界ではテロリストが惨殺される事件が発生。しかしそれは風雲急を告げる合図に他ならなかった。次々と暗殺されるテロリスト、その犯人はアイアンマンだったのだ!

 

〈世界平和〉

うなだれるトニーを、5体のアーマーがじっと見下ろしていました。アベンジャーズのエマージェンシーコールが発されてから約22分間の自失。その原因がさっぱり分からなかったのです。意識を取り戻してからすぐに駆けつけはしたものの、スパイダーマンが負傷して現在も治療中です。過労故の気絶? 確かにここ最近のトニーは多忙を極めていました。CEOとアベンジャーズの兼任はもちろん、秘密裏に進めていたアルゴノートプログラムの調整にもかかりきりだったのです。アルゴノートプログラムはトニーが世界平和を実現するための第1歩でした。5体の局地戦仕様のアイアンマンによる世界保護計画です。短期間でピーキーな性能のパワードスーツを用意したのですから、その多忙っぷりは私達が想像するよりも過酷なものでしょう。しかしエクストリミスがある限り、単に気絶したならアーマーにより起こされるはず。エマージェンシーコールの受信ミスとも考えられません。原因を調査するにしても、エクストリミスなのかアーマーなのか、それとも自身が主因なのかさえ検討もつきません。しかしトニーを悩ませる種は無慈悲にも更に追加されます。同じ頃。世界の首脳を集めフューリーはある事件の逮捕要請を行っていました。最近頻発するテロリスト暗殺事件。その犯人が分かったというのです。暗殺されたのは2名。1人は民間人も搭乗する飛行機のコックピットを切り離され、乗客乗務員全員を巻き込んでの墜落。1人はアジトを強襲され部下共々全員皆殺し、首をかき切られた死体は木に吊るされるという凄惨極まりない事件でした。これらの事件にはいくつか共通点が存在しますが、中でも大きなものは2つ。1つ目はかつてインセン教授殺害に直接あるいは間接的に関わっていること。2つ目は、アイアンマンが関係していることです。飛行機を切断したのは、断面からリパルサー光線だと特定されています。また2つ目の事件ではリパルサー光線の跡はもちろんアイアンマンの目撃例まであるのです。仮にそれが幻覚だとして、リパルサー光線をあそこまで自在に操る技術はスターク社しかないでしょう。これらの証拠から犯人はアイアンマンだとフューリーは断定、エクストリミスの作用によりアーマーの強奪は考えられないことから、フューリーは各国首脳へトニー・スタークの逮捕を呼びかけます。人類と世界への功績を思えばトニーの逮捕は考えられません。しかし全ての証拠がトニーを犯人だと指し示していることもまた事実。各国首脳が決断を迷う瞬間、モニターの画面が切り替わりました。エクストリミスを使ったトニーが画面をジャックしたのです。それまでの会話も盗聴していたトニーは、決断を躊躇う首脳らへ無実を訴えます。しかし今のトニーにそれを証明する確たる証拠はありません。そこで、最高レベルの警備を設けられた監獄に自ら収容されるという提案をします。トニーが収容されている間に事件が起きれば犯人は別にいるし、もしトニーが犯人ならそのまま事件は収束するはず。トニーの提案はすぐに受け入れられます。
f:id:ELEKINGPIT:20231017082912j:image自ら逮捕されたトニー。そのやつれた目は真実を訴える。

 

事件が起きたのは数日後のことでした。荒涼地帯には似合わない戦車や武装した人々の上空をアイアンマンが駆け抜けます。リパルサーで戦車を切り裂き、武装ヘリを落とし、目標へ一直線に進むアイアンマン。あっという間に2人のテロリストを持ち上げて上空まで飛んだかと思うと、2人を掴んでいた手を無慈悲に離し戻ってきました。鮮やかなまでの暗殺劇です。アイアンマンはテロリストのアジトの上で立ち尽くしていました。何が起こったのか? これを自分がやったのか? ヘルメットの向こう側にいたのはトニー・スターク本人だったのです。これによりSHIELDはトニーを一連の暗殺事件の犯人と断定、一方トニーは恩師のサルへ身を寄せ隠れることとなりました。人を殺した。この手で殺した。呆然とするあまりまともに食事も取れないトニー。しかしだからこそ一刻も早く事態を解明せねばなりません。殺害の瞬間、トニーの意識がなかったことは本人が証言しています。ならば何者かに操らたのか? サルとトニーは脳の解析を始めます。トニーの体にはエクストリミスがあり、まずはその作用も確認せねばなりません。逮捕されたマヤ・ハンセンも連れ出し、本格的な調査が始まりました。マヤの見解はこうです。トニーの脳に電波受信装置のようなものが仕込まれており、これでトニーを操っていたのでは? 仕込まれたタイミングは不明ですが、トニーの機械を操る性質を逆に利用したものか、あるいはエクストリミスを変質させたのかもしれません。確かに脳にはそのような機械が認められます。ではどのように操ったのか? 電波を受信するにしても、逆探知されてしまえば意味がありません。電波を発しながら逆探知は妨害する。そんな方法があるのでしょうか? 受信できる電波の範囲は広大で、しかし逆探知は阻害することが可能な方法……1つだけありました。いえ、むしろこの方法ならば逆探知も可能でしょう。犯人は恐らく国際平和サミットの襲撃も視野に入れているはず。トニーの目には輝きが戻っていました。
f:id:ELEKINGPIT:20231017185939j:imageトニーの脳を解析する3人。導き出した真実は、更なる暗殺を予感させた。

 

その日、イギリスでの国際平和サミットは異様な雰囲気を醸し出していました。警備に配置されたのはSHIELDのヘリキャリアだけでなく、アベンジャーズファンタスティック・フォーも動員されたのです。当然アイアンマンは欠番。物々しい雰囲気に包まれながら、メインスピーチを担当するカリム・ナジーム氏が登場します。これこそが黒幕の狙いです。ナジームはかつてインセン教授の殺害を命じた張本人。それを平和スピーチのメインに据えたのですから、最も目立つ場で暗殺を狙うのは当然でしょう。SHIELDもヒーローらもアイアンマンの襲撃を警戒し極度の緊張感を保っていました。瞬間。上空に一筋の閃光が。アイアンマンです。アイアンマンが現れたのです。アベンジャーズやFFは一斉にアイアンマンを追いかけます。同刻、客席でほくそ笑む人物が。あれが犯人でしょう。客をかき分けフードを被った背の低い人物へ手をかけると、グイッと引っ張りその顔を確認します。トニーはエクストリミスで中身のいないパワードスーツを飛ばし、自身は電波を辿り犯人を特定したのです。些末な携帯電話の電波なら逆探知は難しいし、逆に簡単な命令しか与えられないはず。一方脳の受信機が電波をキャッチした途端全身麻酔が施されたような状態になるため、簡単な命令でも精巧に動かせるという寸法です。予想通り犯人は携帯電話と専用の小型デバイスを用いていました。予想外なのは、犯人が10代半ばの子どもだったことです。犯人は即座にトニーを麻痺させると、自らの正体をインセン教授の子どもだと言います。だからインセン教授を死に追いやったテロリストを、死のきっかけを与えたアイアンマンを使い復讐したのだと。あの天才の血を引くのですから、トニーさえ翻弄したテクノロジーを有することも納得がいきます。だからこそその天賦の才をこの社会のために生かすことが出来れば、親を超えることだってできるはず。重い手を伸ばすトニー。しかしその瞬間、少年は何者かに撃ち抜かれ倒れてしまいます。SHIELDです。SHIELDがその才能を危険視し、既に犯した罪を償わせるため、即時死刑を敢行したのです。これが引き金となってしまいました。世界を平和にするためのプログラムが実行されます。
f:id:ELEKINGPIT:20231018075718j:imageラボの奥底で目を覚ますアルゴノートアーマーたち。世界平和のための技術が執行されようとしていた。

 

アルゴノートアーマーは、トニーが開発した5体の局地戦仕様アーマーです。万が一のための備えでしたが、今や世界へ牙を向け暴走してしまいました。アベンジャーズやFFなど多くのヒーローが収束のために動き出す中、トニーはその責を今出来る最大限背負うため、世界中に散ったアーマーと戦う決意を固めます。水中戦専用のアーマーは、海中で大洋王ネイモアと戦っていました。海中でこそ真価を発揮するネイモアの戦闘力ですが、水中戦に特化したアルゴノートアーマーは反撃の隙をも与えません。耐久力特化型のアーマーは、FFの猛攻さえ耐え、あっという間に制圧してしまいました。しかしそれらをも凌駕するのが、アルゴノートハルクバスターアーマー。戦闘力に特化したアーマーです。ニューヨークで暴れ回りアベンジャーズをも圧倒したアーマーは、それまでのアルゴノートアーマーに比べトニーでさえ倒す術を持ちません。アベンジャーズさえ正面から倒したハルクバスターを倒さなくては事件の収束はありえないでしょう。ハルクバスターがキャップへトドメを刺そうとしたその時、トニーの覚悟は固まります。暴走したアルゴノートアーマーを止める最後の術を使うのです。エクストリミスで起動するアーマーは、トニーの死で停止します。トニーは自身に1万ボルトの電流を流すことで心臓を止め、仮死状態となることでハルクバスターを機能停止させることにします。
f:id:ELEKINGPIT:20231018082434j:image倒れ伏す両者。世界のために作られたアーマーは、瓦礫の山を作り機能を停止した。

 

〈銃と引き金〉

何者かに操られ、大勢を殺害したアイアンマン。本作は後の出来事へ大きな影響を与えました。それが顕著に現れているのが、トニーが発した最後のセリフでしょう。「ヒーローが悪へ堕ちても、私のように操られても結果は同じだ。多くの市民の命が失われてしまう。全てのヒーローは銃になり得る」トニーはヒーローを銃に例えます。引き金を引くのが自分かどうかに関わらず、人々が死ぬならばその力は凶器に他ならないと考えたのです。力はなんのためにあるのか? ヒーローにとっても力の在り方は様々です。しかし空を飛ぶのは一刻も早く助けを求める声へ駆けつけるため、盾を扱うのはその後ろにある人々を守るためにあるのは間違いありません。ではアイアンマンは? 日進月歩で加速する性能の向上は何の意味があるのか? 私は、より強い者から弱きを助けるためだと考えています。しかし本作ではその力が弱きに向けられた銃となってしまいました。その引き金は悪意を持つ人間に引かれてしまいました。トニーの思惑とは真逆になってしまったのです。どのようにこの悲劇を回避すべきか? トニーが行き着いたのは、後にヒーロー社会を分断する超人登録法でした。力の使い方を適切に学び、相応のヴィランと戦うシステムの構築です。何故後のトニーは卑怯な手を使ってでも超人登録法を推進したのか? それは、トニー自身が受けた心の傷を誰にも負わせないためでした。無垢な人々を少しでも傷つけないようにするためでした。今作を触れ改めてシビルウォーを読むと、また印象が変わるかもしれません。