アメコミを読みたいらいとか

MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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CAPTAIN AMERICA HAIL HYDRA!

どんなベテラン兵士よりも長く激しい戦いを経験してきたキャプテン・アメリカ。それゆえか数多くの宿敵が虎視眈々とその首を狙い続けています。今作はそんな宿敵の1人との出会いから決着までを描いたミニシリーズです。マーベルユニバースの歴史を辿りながら敵を追いかけるストーリーはキャプテン・アメリカのような古参ヒーローならではの展開でしょう。
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〈あらすじ〉

1944年、キャプテン・アメリカは世界に巣食う史上最大の悪魔を発見する。古くは紀元前、時の為政者を常に操ってきた恐るべき組織だ。名を変え人を変え、それでも変わらぬ野望を絶やさず何十世紀も生き長らえた組織だ。そして現代、キャプテン・アメリカは戦中と変わらぬ恐怖思想に慄くことになる。ハイル・ハイドラ! 狂った矜恃で世界を我が手に!

 

〈頭を切っても〉

1944年、キャプテン・アメリカはバッキー、ドイツのスパイ兵ロンと共にある古城へ潜入していました。古城にはナチスの秘密基地があると情報があったのです。確かに城内は物々しい雰囲気に包まれており、ここで「何か」があることは確かでしょう。慎重に足を運び、3人はついにある実験室を見つけました。何人もの兵士がベッドの上で横になっており、白衣を着た人物が薬物を投入しているよう。突入の口火を切ったのはバッキーでした。機関銃を打ち鳴らし、立ち塞がる兵士たちを何人も蜂の巣にし、白衣を着た人物、ゲイスト博士へ迫ります。その時です。倒したはずの兵士がバッキーへ襲いかかったではありませんか。援護に来たキャップのおかげでなんとかノックダウン……かと思いきや、兵士はまたもや何事も無かったかのように立ち上がります。骨を念入りに折り再起不能にしたはず。いや、そもそも蜂の巣になっている時点で死んでもおかしくないはず。ゲイスト博士は勝利を宣言するかのように高笑いしました。この兵士は既に戦闘で死亡しており、今動いているのは死体に過ぎないと。改造手術にゾンビ化、ゲイスト博士は「組織」が2000年間夢見てきた不死身大隊の実現を目指していたのです。いくらヒトラーでも、自軍の兵の墓を暴くのは許さないはず。キャップの反論にゲイスト博士が狂った笑みを浮かべます。古くは紀元前、名を変え姿を変え、我々はあらゆる世界を影から支配してきた。ヒトラーでさえ、ムッソリーニも東條も操り人形の1人に過ぎない。首を切ってもまた新たな頭が生えてくる不死身の組織ハイドラなのだ。驚愕キャップを取り囲むのは、そんなゲイスト博士の不死身兵でした。キャップを拘束するゲイスト博士。バッキー共々、2人はゲイスト博士のゾンビ化血清を打ち込まれてしまいます。同時。様子を窺っていたロンがピストルを持って突入。キャップも自らの力で拘束を解除し、形成が一気に傾きます。キャップへゾンビ化血清を投与するという目的は達したゲイスト博士は、ハイドラ兵を率いて撤退しました。
f:id:ELEKINGPIT:20230711075719j:imageゲイスト博士の生み出した不死身大隊。この軍団を率いてゲイスト博士は世界中にハイドラの旗を掲げようとしていた。

 

あれから何十年の月日が経ったでしょう。現代に蘇ったキャップは、バッキーの墓の前で静かに懺悔を行っていました。大戦から生き残っていたロンもすっかり衰え、キャップは同じ土の下で眠れなかったことを後悔するほどの孤独に苛まれていました。静寂を破ったのは、墓の下から這い上がった兵士たちです。背後からは聞き覚えのある高笑いが。体のほとんどを機械化しながら、ゲイスト博士は生きていたのです。不死身兵らの恐ろしさを知るキャップはアベンジャーズを招集。力強い仲間たちに助けられ、反撃を開始します。しかし老いたロンは逃げることさえ出来ませんでした。結成されたばかりのアベンジャーズの隙を付かれ、キャップの目の前でロンが殺されたのです。なんとか不死身大隊を倒したアベンジャーズですが、ソーとキャップが負傷。ゲイスト博士はまたしても目的を達したとして撤退しました。今回のゲイスト博士の目的は、超人兵士と雷神の血を採取すること。この2つとゾンビ化血清を合わせることで、神をも超える最強のハイドラ兵を作り上げようと計画していたのです。一方キャップは、静かに息を引き取ったロンの前で必ずゲイスト博士の野望を打ち砕くと誓います。
f:id:ELEKINGPIT:20230711081404j:imageアベンジャーズの背後で死にゆくロン。キャップの孤独を埋める存在さえいなくなってしまった。

 

更に月日は流れ、アメリカ政府に絶望したキャップはシールドとコスチュームを変え、「キャプテン」という名前で活動していました。事件の合間にゲイスト博士の調査を続けていたキャップは、SHIELDと協力しある作戦を遂行しようとしていました。ゲイスト博士の痕跡から次に現れる墓地を特定、待ち伏せ攻撃を行うのです。囮役は当然立案者のキャップ。ドクターストレンジの魔術でアベンジャーズを潜ませて合図があれば一斉攻撃を行おうという算段でした。目論見通りゲイスト博士が現れます。しかしゲイスト博士もキャップの動きを読んでいたのか、以前よりも更に数の増した不死身兵を引き連れていました。それでも形勢は変わらないはず。驕るゲイスト博士。作戦通り、キャップは合図を発します。魔術で潜んでいたヒーローたちが一斉に登場。怯んだのはゲイスト博士の方でした。不死身大隊の戦闘力は確かに超人的です。しかし今ここにいる正義の心を持つ者たちは、逆境を超えた強さを持ち合わせています。これまでにないほどゲイスト博士を追い詰めたキャップ。不死身兵に阻まれながらも遂に拳が届く距離まで接近します。しかし次の瞬間でした。至近距離まで接近したキャップに向けてゲイスト博士は腕に仕込んでいた機関銃で応戦。キャップとの戦闘を危惧していたゲイスト博士は、機械化した体のほとんどを戦闘用に改造していたのです。身体中に仕込んだ兵器を使った戦術は恐るべきもの。1対1ならキャップさえ凌ぐほどです。キャップはあと一歩まで追い詰めながら、とうとうゲイスト博士を取り逃してしまいました。
f:id:ELEKINGPIT:20230711090003j:imageゲイスト博士の腕から火を噴く銃弾。恐るべき戦闘力でキャップからさえ逃げ延びた。

 

更に時は進み、ヒーローの時代がやってきました。事実上ヒーローを統治していたオズボーンを打ち倒し、シビルウォーから続く闇の時代を終わらせたのです。SHIELDの長官となったキャプテン・アメリカは、今が最高の機会だとゲイスト博士を今度こそ倒す作戦を考えます。現在判明しているゲイスト博士の秘密基地は3箇所。恐らくこれ以外ないと思われます。キャップは可能な限りアベンジャーズを招集し、3つの分隊に分けました。3箇所の秘密基地を同時に攻撃するのです。たとえその場でゲイスト博士を取り逃しても、逃げた先でまたアベンジャーズと遭遇するでしょう。これなら必ずゲイスト博士を捕えられる。キャップは確信とともに攻撃を開始します。あっという間に不死身兵をなぎ倒すキャップ。最奥部、そこには10メートル近くある巨人の胸に自らの体を融合させたゲイスト博士がいました。ゲイスト博士は狂った声で笑います。この巨人にはゾンビ化血清、キャップの血液、ソーの血液を混成させた薬物が投与されているようです。その巨体、そのパワー、まさに神をも超えた最強の兵士でしょう。戦う前からゲイスト博士は勝利を確信していました。しかしそれはキャプテン・アメリカも同じ。相手が例え神でも悪魔でも決して恐れず立ち向かってきました。隣には蘇ったバッキーや頼りになる最強の仲間たち。孤独に苛まれることも、懺悔の必要さえありません。この拳に乗る思いは、覚悟は、決して「スティーブ・ロジャース」1人のものではありません。数千年間醜く生きながらえてきた野望が崩れ去ろうとしていました。
f:id:ELEKINGPIT:20230711185112j:imageゲイスト博士に挑むキャップ。醜悪な野望を打ち砕く時が来た。

 

〈その血に流れるもの〉

約1世紀かけて敵を追いかけたキャプテン・アメリカ。月日が重なる分重みも増し、これ以上ない読後感でした。しかし、今作には1つだけ気になる箇所があります。キャップに打ち込まれたゾンビ化血清です。ゲイスト博士はキャップが現代まで生き残った理由をゾンビ化血清の効能だと誇っており、それを利用する場面もありました。もしゲイスト博士の話が本当なら、バッキーが現代まで生き延びた一因もゾンビ化血清が考えられるでしょう。現代に生きる2人の伝説がどちらもハイドラの賜物であったなら? その血に流れるものがハイドラであったなら? 答えは自明でしょう。人を構成するアイデンティティには、当然その人のルーツ、起源も含まれます。拡大解釈するならば現代に生きるキャップやバッキーのアイデンティティもハイドラと言えるでしょう。しかしルーツや起源だけがアイデンティティではありません。その血にハイドラが混ざっていたとしても、キャップの精神には微塵も違いはないのです。アイデンティティは1つではありません。自分が大切にするアイデンティティは自分で選ぶ。自分にハイドラの血が混ざっていてもキャップの精神が揺るぐことはありませんでした。アイデンティティを選ぶことも生きる術の1つなのでしょう。