アメコミを読みたいらいとか

MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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IRON MAN HOUSE OF M

みんなの理想の世界を描いたハウスオブM。ユートピアであるはずの世界がディストピアとして表現される物語は多くの人々が惹き込まれたことでしょう。さて、本作はそんなクロスオーバー作品ハウスオブMのタイイン(サイドストーリー)です。本編では端役だったトニーはこの世界でどのように生きていたのでしょうか? 正史世界とは異なる数々のキャラクターの姿に驚かされますが、これも平行世界の物語を読む醍醐味でしょう。
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日本語版関連コミック

 

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〈あらすじ〉

サピエン・ロボット・デスマッチ! アーマーを着た人類同士が戦い頂点を争うスポーツで、スターク家は無類の強さを誇っていた。そんな中、スターク社のラボで禁忌の研究が見つかる。それはこのユートピアのタブーを犯しかねないものだった。

 

〈「サピエン」の生き方〉

サピエンとは、ミュータントが人間へ使う蔑称です。ミュータントがマジョリティとなった世界では当たり前のように使われている言葉でしょう。サピエン・ロボット・デスマッチはその代表的な例です。サピエン・ロボット・デスマッチとは、アーマーを着た人類が戦うスポーツです。ヒューマントーチやセンチネルなど多様な選手が活躍し、高い人気を誇る競技となっていました。中でもスターク親子は無類の強さを誇ります。他の選手を圧倒する実力者のトニー、そんなトニーさえ勝てず常に頂点に君臨するハワード。トニーはスタークインダストリーズという会社を経営していますが、日々ハワードに経営方針さえ口出されその存在を疎ましく思っていました。いえ、ロボット・デスマッチでも勝てないハワードにコンプレックスさえ抱いていたことでしょう。そんな2人に転機が訪れます。スターク社の若い研究員であるピム博士が禁忌の研究を行っていたのです。ミュータント中心の世界では、ミュータントに関する研究はタブー視されていました。そんな中ピム博士が行ったのは、ミュータント遺伝子の解析です。確かにミュータント遺伝子の正体や諸々の情報が分かれば「サピエン」にとっても大きな進歩となるでしょう。しかしそれをミュータントが、そしてその頂点に立つマグナス王家が許すはずもありません。トニーはハワードの指示もありやむなくピム博士を解雇せざるを得ませんでした。
f:id:ELEKINGPIT:20230728080949j:imageハワードの怒りを買うピム博士。その研究はパンドラの箱を開ける行為になり兼ねないのだ。

 

ところが解雇されたピム博士は、「サピエン・レジスタンス」のメンバーと度々接触していることが判明します。もし研究結果をレジスタンスに提供していたら? ミュータントやマグナス王家を敵に回すことは死を意味します。もしマグナス王家が人類との共生を拒み、人類全体を敵とみなしたら? この危険極まりない行為を止めるため、トニーはピム博士の行方を追跡しました。ピム博士がレジスタンスと接触する瞬間をこの目で見たトニー。人類の位置を守るため、ロボット・デスマッチで使うアーマーを着用したトニーはピム博士へ手を伸ばそうとします。その時です。トニーを妨害するように巨大なセンチネルが現れたではありませんか。遠隔操縦しているのはあのハワードです。ハワードのセンチネルの火力を用いてレジスタンスごとピム博士を殺害しようとしていました。人類を守るためとはいえ、レジスタンス諸共殺害するなど以ての外です。トニーはハワードに戦いを挑みます。サピエンデスマッチでは負けてばかりのトニー。しかし今回は人命がかかってぃす。負けるわけにはいきません。執念で食らいつき、なんとセンチネルへ致命傷を与えることに成功したのです。ハワードはそれで満足したのか去っていってしまいました。今こそ逃れたピム博士を捕えるチャンスです。サピエンデスマッチでのライバルとして有名なヒューマントーチが協力を名乗りあげ、2人はようやくピム博士を発見。ところがピム博士は恐るべき事実を言い出します。なんとミュータント遺伝子を解析し、ミュータントにのみ反応する爆弾を作ったと言うのです。ミュータントを殺すための武器にトニーも戦慄。規定時間内に見つけなければ、辺りは火の海となるでしょう。
f:id:ELEKINGPIT:20230728183544j:image爆弾を探すヒューマントーチとトニー。しかしこの陰謀にはさらなる黒幕が隠れていた。

 

〈コンプレックス〉

ハワードとトニーが登場する珍しい物語が描かれた本作。そこで取り扱われたのは、トニーのハワードに対するコンプレックスでした。何故トニーはハワードへコンプレックスを抱えていたのでしょうか? 考えられる最もシンプルな理由は、サピエンデスマッチでしょう。どれだけ強くなっても「勝てない」相手にコンプレックスを抱くのは自然な心理です。しかしそれだけとは思えません。会社の経営方針さえ口を出すハワードへ、トニーは密かに敗北感を抱いていたことでしょう。自分ならもっと上手くやれるはず。しかしハワードの言うことも正しいのだと。劣等感と言い換えることもできるでしょう。ならばトニーはどのようこの劣等感を抜け出したのでしょうか? 本作のラストは実際に読んでいただくとして、その兆しが現れたのはピム博士を殺そうとしたハワードと対峙した時だと考えています。その考えはトニーと全く違う過激なもので、トニーはそれを否定するように戦い始めます。劣等感とは自分を他人に重ね、その差に苦しむ感情です。共通点が多ければその差により焦点が当てられるでしょう。しかしここでトニーとハワードはハッキリと違う考えの持ち主であることが読者にも明示されました。ハワードは単にトニーの上位互換的な存在ではなかったのです。言葉にすると当たり前のことですが、これを感覚として理解することがどれほど難しいことでしょう。トニーはこの時からコンプレックスを脱しつつあったと考えています。