アメコミを読みたいらいとか

MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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FANTASTIC FOUR/IRON MAN BIG IN JAPAN

MARVELのようなアメリカンヒーローコミックは、当然アメリカを舞台にした物語がほとんどを占めています。それでも馴染みある日本の登場を期待してしまうのが日本読者の心情というものでしょう。今作は日本から物語がスタートする少々珍しい物語です。作中では何度か日本語が登場するなど、日本に馴染みのある方なら思わずくすりと来てしまう描写も。特徴的な絵柄と大胆なプロットにも目を惹かれ、ハマるとトコトン好きになってしまうような作品となっています。
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〈あらすじ〉

巨大怪獣の博物館を開館させた日本は、開館式でファンタスティック・フォーを招待していた。しかしその日、沈静化したはずの巨大怪獣が東京の町を暴れ回る。怪獣たちは感じ取っていたのだ。かつてこの星を蹂躙した伝説の化け物の復活を。

 

〈5次元からの刺客〉

1954年、水爆実験がきっかけで誕生したあの恐るべき大怪獣が東京で大暴れして以来、日本は怪獣大国とでも言うべきほど巨大生物の襲撃を何度も受けていました。ファンタスティック・フォーはその撃退に協力した過去があり、今回開館する怪獣博物館の式典に招待されることに。東京は歓迎の声に包まれ、コスチュームを纏う人も現れるほどです。開館の式典を終えると、博物館館長の山根博士が4人を出迎えました。山根博士は館の収集物と研究の成果を自慢したい様子。トニー・スタークもプライベートで博物館を訪れており、6人で成果を見て回ることになりました。鋭い牙、巨大な骨。思わず魅入ってしまうような展示品の数々ですが、山根博士の自慢したいものはこれではありません。館の奥、学芸員でしか出入りできないようなスペースにそれはありました。なんとそこには小さな怪獣たちが飼育されているではありませんか。山根博士は遺伝子実験とその改造を繰り返し、遂に無害な怪獣のクローンを生み出すことに成功したのです。このクローンを如何様にも実験すれば更なる謎も解明できるでしょう。この成果はリードさえ感心するほどでした。ところがクローンの様子が突然変わり始めました。なんと遺伝子操作で抑えたはずなのに凶暴化したのです。博物館を脱出し東京へ襲いかかる小さな怪獣たち。ヒーローの出番です。どうやらこの怪獣たちは単に暴れ回っているわけではなく、何者かから逃げている様子。パニックに陥っているようです。大人しいはずの怪獣達をこれほど混乱させる原因は? 答えはすぐに分かりました。なんと東京へ今度は巨大怪獣軍団が迫っているではありませんか。もしあの怪獣軍団が暴れ回ったら、それこそ東京壊滅は免れません。しかし何故このタイミングで? 対処に当たろうとするヒーローを引き止め、山根博士はある作戦を提案します。それは200万年前に南極のそこに埋まった代物でした。保存状態は非常に良好、今にでも動き出しそうなほど精巧に出来た怪獣のミイラです。この怪獣の器官を使えば怪獣軍団とコミュニケーションが取れるのでは? 山根博士の作戦は奇想天外に思われますが、リードはこの作戦に賭けることにします。何故このタイミングで襲撃したのか? そもそもどうして襲撃したのか? 様々な疑問も晴れるでしょう。他のヒーローが足止めをしている間に準備を済ませ、早速作戦を開始。リードは早速疑問をぶつけます。怪獣から帰ってきたのは予想外の答えでした。なんと怪獣軍団も襲撃ではなく、逃げ惑っていたのです。怪獣軍団は伝説上の化け物の復活を予感していたのです。5次元からの刺客、黙示録の獣の復活を。
f:id:ELEKINGPIT:20230821200516j:image怪獣軍団により明かされた伝説上の化け物の存在。未だ目覚めてさえいない黙示録の獣を恐れる理由とは?

 

黙示録の獣。山根博士はその存在に心当たりがありました。そして僅かな証拠を頼りに、黙示録の獣のヒントを求めファンタスティック・フォーとアイアンマン、山根は北極点へ向かいます。北極点には何やら拠点があった痕跡が。山根博士曰く、これはかつて黙示録の獣を調査しようとしたカヤマ探検隊のもの。40年前に連絡が途絶え行方不明となっていましたが、まさかここでその成れの果てを目撃することになるなんて。ショックを隠せない山根博士ですが、探検隊が黙示録の獣の調査でここを訪れていたのなら、黙示録の獣に関する手がかりが近いことは確かでしょう。一同は拠点の調査を始めます。見つけたのは、あまりに巨大すぎる古代遺跡でした。人型に近い外観をしたそれは、まるで古代遺跡そのものが黙示録の獣を表しているよう。中はすぐには解読できないであろう古代文字や目玉のような意匠が覆うようにびっしりと描かれています。古代遺跡の中を進んでいくと、まるで案内人のようにカァと呼ばれる2次元人が現れます。カァは黙示録の獣を復活させるポータルには4つの鍵が必要で、既に3つまでは開かれていると説明します。カァは古代遺跡に入ってきたヒーロー達が最後の鍵を運んでくれたのかと期待の眼差しを向けていました。一方ヒーロー達も安心します。ポータルの鍵は残り1つ、これさえ開かれなければ黙示録の獣が復活することは無いのです。しかし安堵するのもほんのつかの間、山根博士は黒く笑みを浮かべていました。40年前、黙示録の獣を研究していたカヤマ探検隊は、黙示録の獣へカルト的な信仰心を抱いていました。山根博士はその唯一の生き残りだったのです。自身をポータルの鍵とするため様々な意匠を象ったその体を露わにすると、研究の成果とばかりに儀式を開始。黙示録の獣が復活してしまいます。
f:id:ELEKINGPIT:20230821233345j:image次元の裂け目から現れる黙示録の獣。その禍々しく歪な外観から、精神さえ汚染されそうな不気味なオーラを放つ。

復活した以上黙示録の獣を止めねばなりません。ファンタスティック・フォーやアイアンマンの攻撃ではビクともしないこのモンスターを相手にするため、スーザンはある提案をします。黙示録の獣はあまりに巨大すぎるため、毛穴から体内へ侵入できることがわかりました。そこでリード、シング、ジョニーの3人で対策を練っている間スーザンとアイアンマンが体内へ侵入、脳へ到達し弱点を暴くという作戦です。当然体内へ侵入する以上危険が伴うことは承知の上。勇敢な決意にリードも同意し、5人は内部と外部のそれぞれから黙示録の獣を倒そうと動き始めます。スーザンとアイアンマンは無事体内へ侵入すると、巨大な免疫システムと戦うことになりました。これら全てと戦おうものならいくら時間があっても足りません。その上ちょっとしたヴィランよりも圧倒的に高い戦闘力。脳へ到達するには予想以上に時間がかかりそうです。一方外部のリードは、同じく黙示録の獣を追いかける存在に気づきます。地底世界を支配する因縁のヴィラン、モールマンです。モールマンは下僕で地底人のモーロイドが突如制御不能となり、大変困っていました。黙示録の獣の進行方向にある怪獣島にひとまず降りたリードらとモールマン。モールマンの言う通りモーロイドは全く命令を聞かないどころか何らかの準備を進めているよう。このタイミングということは、モーロイドは黙示録の獣と何らかの関係があるのでしょう。ただ逃げるだけならもっと早く逃げ出せたはずだし、また準備に必死でこちらに気づいた様子さえありません。モールマンは怪獣島の火山が噴火直前のため、モーロイドへ共に避難するよう何度も命じているようですが、そんな命令なかったかのようにモーロイドは動いています。確実に何かある。噴火直前の火山、何かの準備を進めるモーロイド、黙示録の獣。この時、リードに電流が走ります。この島は単なる火山ではない。しかしこれは黙示録の獣へウイルスを送り込むための、言うなれば黙示録の獣専用の注射針だったのです。ならばモーロイドは黙示録の獣を倒すために生まれた、言わばウイルスでしょう。ならばモーロイドを黙示録の獣へ侵入させしてしまえば勝ったも同然です。問題はその方法。リードら3人は死力で相手の注意をこちらに引き付け、注射器を刺そうと機会を窺っていました。
f:id:ELEKINGPIT:20230822000641j:image体内へ放たれたモーロイドたち。勝利を確信するスーザンとアイアンマンは体内から脱出することに。

 

〈山根博士の存在〉

本作は奇抜なストーリーから非常に独特なセンスに強く惹かれてしまう奇妙な作品でした。巨大怪獣をテーマにしつつも謎とその後の展開が波のように押し寄せ、その上全てが気付いたら次の展開のため綺麗に処理される手腕。アートも合致して言葉では説明しがたい今作だけの雰囲気を纏っています。そんな奇想天外という他ない本作、ところどころゴジラへのオマージュが隠されていました。

最もわかりやすいのは山根博士の存在でしょう。山根博士は初代ゴジラにも同名の古生物学の権威という立場で登場しており、ゴジラという名を与えた人物です。劇中ではゴジラが水爆実験の影響で現れた怪獣だと推測しており、生きている生命の秘密を解き明かすべきとゴジラ撃退に反対の声を上げていました。これら初代ゴジラの山根博士を踏まえて、今作に登場する山根博士の行動を振り返りましょう。山根博士は黙示録の獣をカヤマ探検隊の1人として調査し、北極点の調査にて自身以外全員が全滅するという悲劇に見舞われます。以来山根博士は怪獣学に従事し様々な功績を残しました。その最大の功績が怪獣博物館の設立でしょう。それでもファンタスティック・フォーやアイアンマンと再び北極点へ赴くと、40年前のカヤマ探検隊としての仕事を全うするため自らを媒介にして黙示録の獣を復活させてしまいました。カヤマ探検隊は黙示録の獣へカルト的な信仰心を抱いていたと語っていますが、山根博士自身にそのような様子は全く見られませんでした。山根博士は信仰心を抱いてはいなかったと考えられるのです。では何故黙示録の獣を復活させたのでしょうか?

初代ゴジラに登場する山根博士は、学術的観点からゴジラの保護を唱えていました。今作に登場する山根博士は怪獣学の権威として名の知れた人物となっており、小さな怪獣であればクローンを制作するほどでした。今作の山根博士は、まるで初代ゴジラの山根博士を発展させたかのようなキャラクターとなっているように感じてしまいます(外見もそっくりです)。ゴジラの保護を唱えた理由が学術的観点だけでなく、個人の好奇心が刺激された結果だとしたら? そのようなマッドサイエンティスト的な風味が加えられたキャラクターが今作の山根博士とも考えられるでしょう。つまり、黙示録の獣を復活させたのは、個人的な知的好奇心をずっと抱えていたからだと言えるのです。黙示録の獣をゴジラに置き換えると更にその構図は鮮明になるでしょう。マッドサイエンティストの山根博士は倒されてしまったゴジラの生命の神秘を解き明かすべくわざと復活させた。当然初代ゴジラの山根博士はそのようなマッドサイエンティストではありません。しかし本作は実際に黙示録の獣を復活させた張本人。決してありえない話ではないのです。

今作の山根博士は個人の好奇心で黙示録の獣を復活させてしまいました。では分野が全く違うとはいえ同じく研究者であるリードやトニーがこれに全く賛同しなかったのは? 研究の成果や科学、そして技術は全て人類の発展のために存在しています。人類が利用するから蒸気機関が生まれ、また電気を利用するための様々なものが開発されました。人類の発展に寄与することが研究の最大にして究極の到達点なのです。もし山根博士が学術的観点も込みで黙示録の獣を復活させたとして、アイアンマンやファンタスティック・フォーがいなければその被害は計り知れないものとなっていたはず。誰かの犠牲を前提とした発展はそれこそ矛盾です。一体誰のための犠牲と発展なのでしょう。リードとトニーは、科学や技術に誇りを持っているからこそ山根博士の行いに全く賛同しなかったのかも知れません。