アメコミを読みたいらいとか

MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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ALIAS INVESTIGATION

21世紀がスタートする前後は、MARVELが様々な試みを行っていた時期と言えるでしょう。アルティメットユニバースの創設しかり、新時代を夢見たニューアベンジャーズやアストニッシングX-Menは良い例です。MAXレーベルの誕生もその1つ。成人向けコンテンツとしてスタートさせたMAXレーベルは、決して煌びやかな世界だけでは無いマーベルユニバースの夕闇のような暗部を映し出しました。今作はそんなMAXレーベル黎明期の作品群の1つです。スーパーパワーだけでは無いマーベルユニバースを堪能しましょう。
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Alias (Alias, 1)

 

日本語版コミック

 

※今作は成人向け作品です。閲覧は成人済みの方に限らせていただきます。未成年の方は保護者の方と共に読むか、ブラウザバックをお願いいたします。

 

〈あらすじ〉

私立探偵のジェシカ・ジョーンズに舞い込んだ依頼は、なんてことない人探しだった。1晩張り込んで写真と動画を撮れば終わるはずの仕事だった。しかしジェシカは知らなかった。この人探しに隠されていた、国家の歴史を変えかねない陰謀の正体を。

 

〈またの名を〉

ジェシカ・ジョーンズが営むエイリアス探偵事務所は、警察の捜査を受けていました。依頼人が調査報告に納得いかず暴れた結果、ジェシカに返り討ちにされたのだとか。依頼人は恰幅も体格も良い人物で、腕の細いジェシカが返り討ちにできるとは思えません。ところが警察は事務所に飾ってあったある2枚の写真を見てジェシカの主張に納得せざるを得ませんでした。アベンジャーズの集合写真です。中にはコスチュームを纏うジェシカの姿が。ジェシカは引退した元アベンジャーのようです。何故辞めたのか? なんという名のヒーローだったのか? 興味本位の問いを適当にあしらって事情聴取を終える頃にはとっくに日も暮れていました。依頼人に暴れられ、事務所の窓ガラスは割れ、警察に尋問されて1日が終わった。今日ほど馬鹿馬鹿しい日はない。ため息をヤケ酒で飲み込み、翌朝も事務所へと向かうジェシカ。事務所の前には、割れたガラスをじっと見つめながら立つ人物がいました。依頼人です。依頼人を事務所へ通し、早速話を聞くジェシカ。その依頼内容は人探しのようです。何でも依頼人の妹、ミランダは新しいパートナーを見つけて以来すっかり夢中になり、ある時パッタリと連絡が取れなくなったのだとか。切羽詰まった依頼だと思っていたジェシカですが、話を聞く限り急を要するものではなさそうです。新たな門出のために家族と縁を切るのは珍しくない話。今回のミランダもそのケースでしょう。高い調査料を考えれば、わざわざ探偵に依頼する程のものでさえありません。それでも依頼人は食い下がります。それならそれでいい。写真や動画の1つでも撮ってくれたらいいからと。そこまで言われるとジェシカも断る理由がありません。今晩には終わりそうな仕事ですし、軽い気持ちで引き受けることにしました。ミランダの家を突き止めたジェシカ。その日の夜には車からこっそりレンズを向けていました。あとはシャッターボタンを数度押して動画1本撮れば仕事は終わりです。大きな2階建ての家から、ミランダかパートナーはかなりの高収入であることがうかがえます。ここでパートナーが仕事だと言ってミランダへ別れを告げました。この時間から仕事ということは、ミランダのパートナーは医者のような職業でしょうか? 決定的瞬間をレンズ越しに待ちます。ガタイのいいロングコート。ミランダのパートナーにジェシカはどこか見覚えがありました。この小さな気付きは一瞬で決定的な確信へと変わります。ガタイのいいロングコートが次に現れたのは、なんと屋根の上でした。正面玄関から出られない理由があるのか? 動画用のカメラを空へ向けると、ロングコートの下からアメリカを表す星が見えたではありませんか! あの人物は、あの星条旗が体を得たようなコスチュームを着た人物は、間違いありません。キャプテン・アメリカです。
f:id:ELEKINGPIT:20231013082029j:image月明かりに照らされる正義の星。伝説のヒーローの瞬間をカメラが捉えた。

 

急いで自宅へと戻るジェシカ。動画を再生しては戻し、何度も幻覚やコスプレか何かでないことを確認します。いいえ、ジェシカならそれをせずとも分かっていたことでしょう。それでも、再生ボタンと停止ボタンから指が離れませんでした。やはりキャプテン・アメリカに違いない。ようやく画面から離れたジェシカが次に目を向けたのは、依頼人でした。あのような決定的瞬間、狙ってもそうそう撮れるようなものではありません。それを単なる偶然で行き着けるのか? この写真は偶然撮れたのではなく、何者かに仕向けられ撮らされたのでは? 元ヒーローだからこそ抱けた確信的な疑惑。ジェシカは早速、依頼人から受け取った住所のメモを取りだし現地へ向かいます。ところがそこは幼児用の服を売る店、分かることは確実にあの依頼人が居ないということです。疑惑が黒に変わった瞬間でした。ならばミランダは? 依頼人の妹と言われていたミランダはそもそも何者なのか? 再びミランダの家へと向かいます。ジェシカはミランダの家へと辿り着けませんでした。規制線が貼られ、警官達が取り囲んでいたのです。野次馬の隙間から辛うじて見えたのは、担架から運ばれる細い体。あの顔は……ミランダです。ジェシカは予想以上に大きな事件へと巻き込まれたようです。
f:id:ELEKINGPIT:20231013133107j:imageジェシカが目撃したのは、力無く横たわるミランダ。この事件には大きな裏がある?

 

翌朝。ジェシカの事務所は警察の捜査を受けていました。昨日起きた殺人事件の重要参考人なのだとか。被害者ミランダの行方を嗅ぎ回っていた上、殺人現場にも顔を見せています。アベンジャーズの写真が飾られていようと、むしろ元ヒーローだからこそ容疑は深まる一方です。担当刑事は明らかにジェシカを犯人と疑っているようでした。長時間苦痛を伴う尋問を行った挙句、果てにはジェシカが多重人格者で違う人格が殺したのではないかと言い出す始末。マット・マードックが担当弁護士となったため尋問は中断されますが、容疑はまだ晴れていないようです。自宅へと戻ったジェシカは、第1に動画データが盗まれていないか確認します。どうやら敵の狙いは動画そのものではないようです。敵の狙いは何なのか? 正体は? 恐らくあの依頼人は末端に過ぎないでしょう。人が1人死んでいるのです。それもジェシカを容疑者にするように仕向けた形で。これは侮辱でしょう。ジェシカは姿形も見えない悪へ立ち向かうことを決意しました。今持っている手がかりは2つ。キャップのスキャンダラスな動画と依頼人から預かった電話番号です。ジェシカはまずキャップから話を聞くことにします。ところが相手は世界中で活躍する伝説のヒーロー。旧知の仲と言えど簡単に会えるものではありませんでした。ならば残された糸口は依頼人が残した電話番号しかありません。偽の住所を伝えた以上、依頼人切れ者か何者かからの指示があったに違いありません。こうなったことを想定して。ならば電話番号も偽装しているに違いないでしょう。とはいえ、これが全くの偽物とも考え難いこともまた事実。もし関係ない誰かの電話番号なら、その入手経路から犯人がバレてしまいます。またこの数字の羅列が電話番号ですらない場合、ジェシカなら依頼人が事務所を出る前に分かったことでしょう。この電話番号は巧妙に隠していますが、確実に犯人への経路を表しているに違いありません。アメリカでは探偵の捜査権は一般人のそれよりはるかに大きいもの。しかし相手が探偵と分かった上で渡した電話番号に、探偵個人が見抜ける程度の偽装を施すとは思えません。そこでジェシカはキャロルの手を借りることにしました。アベンジャー時代は親しかったジェシカとキャロル。もしキャロルが捜査に協力してくれれば、アベンジャーズの捜査権で電話番号の偽装を暴いてくれるに違いありません。
f:id:ELEKINGPIT:20231013184536j:imageキャロルへと託された唯一の糸口。ジェシカのアベンジが始まった。

 

しばらく後、ジェシカの求めていた答えは1通のメールで告げられます。キャロルからです。電話番号から辿り着いた大元は、ある選挙事務所のものでした。ジェシカが事件解決に奔走している当時はブッシュ氏とキートン氏による大統領選挙が迫っていたのです。両者選挙活動に勤しんでおり、支持者のいる方々へ飛び回っている姿が毎日報じられています。どうやらヒーローとの繋がりをアピールしているブッシュ氏が若干リード、キートン氏はやや不利な形勢にあるようです。キートン氏の選挙事務所が捜査に浮上したということは、この事件は大統領選挙絡みの陰謀でしょうか? いくつか仮説は考えられますが、まずは現地へ行くべきです。ジェシカは早速メールに記された選挙事務所へ向かいます。大統領選挙が近いとあり、事務所は電話番が何人いてもコールが鳴り止まないほど騒がしい場所となっていました。事務員も駆け回り、来客1人に対応出来ないほどの多忙さ。しかしジェシカは事務所を見渡すことなく1点を見つめていました。当たりです。見つめた先には、あの依頼人が事務員として勤めていたのです。血の気が引いていく音が聞こえてくるようでした。依頼人は事務所の勝手口から逃れようと他の事務員を押しのけます。余程予想外の出来事だったのか、ジェシカが捕まえた途端依頼人は失神してしまいました。手元には携帯電話。何かあった時の緊急連絡先でしょう。偽装が施されているとも思えず、これが黒幕への最後の1歩なのか? 電話番号の先はローソン・ダヴィアーノ弁護士が営む事務所でした。当然そこへ向かうジェシカですが、ローソン・ダヴィアーノが黒幕ではないと推理していました。弁護士は雇って動くもの、金がなければ動かないものです。それをわざわざ選挙絡みで自分から動くとは思えません。恐らくその弁護士を雇った人物がいるはず。これは確信です。ではどうやってその黒幕を探すのか? 手がかりは自ずと現れました。山のように大柄な人物がいきなり襲撃してきたのです。このタイミングの襲撃なら黒幕が差し向けたに違いありません。返り討ちにしたジェシカは早速尋問を開始。遂に黒幕へ、真実へと辿り着きました。
f:id:ELEKINGPIT:20231014085739j:imageついに掴んだ真実。暴かれたものの正体とは?

 

〈コードを破って〉

本作最大の特徴といえば、いわゆる「Fワード」の解禁でしょう。「ファック」などの言葉はそれまで子ども向けコミックの誌面に乗ることが自粛、あるいは禁止されてきました。しかし本作は年齢制限を設けることでこれを解禁、シニカルでハードボイルドな作風にリアリティを与えることに成功しました。そんな本作、コードを破ってまで作られた作品には制作された背景と同様にコードとそれを破ることが描かれていました。

本作最大の特徴は、マーベルユニバースで起こった出来事ということです。このようなリアリティある作品を、実際にヒーローの住む世界で行うと時にその擦り合わせが出来ず世界観の破綻を招いてしまいます。しかしリアリティとファンタジーを往来するマーベルユニバースだからこそ描く意義があるでしょう。マーベルユニバースはフィクションです。フィクションでファンタジーです。しかし幾重にも積み重なった歴史が世界観を産み、今や単なる物語の舞台以上に大きなものとなっていることもまた事実。本作は、そんなマーベルユニバースがこれまで触れてこなかったタブーにあえて触れている作品と言えるでしょう。選挙運動、妨害工作、果てはヒーローのスキャンダル。輝かしい世界観で描かれたドロっとしたものは、あくまで子ども向け作品に対してはタブーだったはずです。それを本作は年齢制限を設けることで枷を外し、今までのコードを破ってあえて描いたのです。効果は抜群だったでしょう。本作を読む前と後ではマーベルユニバースへの見方が少し変わるはず。初めてブラックコーヒーを飲めた日のように、僅かな違いですが景色が違って見えるはず。これはマーベルユニバースから送られた1杯のブラックコーヒーです。鬱陶しいような苦味が美味か苦手かはあなた次第、しかしだからこそ、体験したかしないかでは世界が少しだけ変わるはずです。