アメコミを読みたいらいとか

MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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IRON MAN #245〜#248

元パートナーの凶弾に倒れ、車椅子生活を余儀なくされた前回。1度はアイアンマンの引退さえ考えましたが、勇気と覚悟を振り絞って何度でも再起する姿が描かれました。そして今回は、再び歩き出すために因縁と決着をつけます。何度でも立ち上がることがアイアンマンという物語の魅力だと私は考えていますが、今作もその類に漏れません。
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前回はこちらelekingpit.hatenablog.comelekingpit.hatenablog.com

 

〈あらすじ〉

元パートナーの凶弾から車椅子生活を送ることとなったトニー。アイアンマンとして人助けに邁進する日々を過ごしながら、その表情は晴れなかった。そこへ舞い込む、全米を揺るがしかねない大事件の兆し。そしてあの事件に決着をつける時が来た。

 

〈1歩〉

車椅子で仕事に、パワードスーツを着てヒーロー活動に勤しむトニー。その表情に陰りが見えるのはローディも気付いていました。ところが多忙故にその心配を口に出す暇もありません。それはある日のことでした。ドレッドノートと呼ばれるヴィランの出現にアイアンマンが対処していたのです。ドレッドノートは鋼鉄の装甲で作られたロボット。強力な武装で侮れない戦闘能力を持ちます。それが4体も暴れているというのですから、ヒーローの出番です。トニーはアーマーウォーズで生み出した新型パワードスーツの性能を充分に引き出し、あっという間に敵を殲滅します。しかしここでトニーの心に引っかかることが。ドレッドノートはマギアと呼ばれるマフィアが持つロボットのはず。ドレッドノートが動いたということは、マギアに何らかの動きがあったことに他なりません。探りを入れると、驚きの事実が発覚します。なんとマギア、ハイドラ、AIMによる抗争が始まったというのです。それぞれが超兵器を所有する世界規模の悪の組織。全面衝突が始まったらどれほどの被害が出るのでしょう? ドレッドノートを恐れたAIMとハイドラは一時的に共闘している様子。マギアの首魁マダムマスクを拉致する強硬手段に出ます。一方、マダムマスク誘拐の報せを聞いたアイアンマンはその行方を追いました。そして居合わせたハルクと共に、AIMとハイドラの共同基地で戦闘開始。マギアのドレッドノートも雑兵も薙ぎ倒すことで、全戦力へ大損害を与えます。3大組織の抗争は、両者痛み分けで終わりを迎えました。トニーは民間人へ被害を出すことなく事態を解決させたのです。しかしその表情は決して晴れませんでした。
f:id:ELEKINGPIT:20240114012923j:image3大組織の抗争を終わらせたトニー。それでも不安とストレスばかり募らせていく。

 

 トニーのストレスは限界に近づいていました。パワードスーツを着ている間は歩けるのに、ひとたびそれを脱げば車椅子に縛られてしまう。アーマーばかり着ている時間が増えたのは当然でした。だからこそ「トニー・スターク」に戻らなければならないことさえストレスだったのです。車椅子生活に不満はあるものの、それ以上に理不尽に歩けなくなった事実へ怒りを覚えていました。手術を担当した医師が歩くことは出来ないと宣言したのは記憶に新しく、諦めるしかないのは明白。またトニーが荒れつつあるのは、トニーを銃撃したケイシーの裁判が近づきつつあることもまた一因かもしれません。ともかく、良好とは言えない精神状態でトニーは裁判当日を迎えます。ケイシーは終始トニーへ挑発的な態度を取り、証言ではありもしない嘘を並べる始末。陪審員がこれをどれほど信じるかは分かりませんが、不安が過ぎるのは確かでしょう。ケイシーは自らの正当性を主張するため、トニーがいかに愚かで恐ろしい人物かを述べます。満足気に証言を終えたケイシー。次はトニー達の番です。ここで証言台に立ったのは、仕事やプライベートで親交のあった仲間たちでした。皆が口々にトニーがどれほど信頼できる人物か。トニーとの絆を誇りに、時に具体的なエピソードを交えどれほど優れた人物かを説き始めます。元パートナーに撃たれ、ある時はアイアンマン引退さえ考え、侮蔑と同情の眼差しを向けられ、心にのしかかった重りはどれほどのものだったでしょう。これ程多くの人がトニー・スタークという人物を掛け値なし褒め称えるのは本人の人望に他なりません。この時、トニーは本当に久しぶりに屈託のない笑みを浮かべていました。こうして裁判は無事、ケイシーの有罪で幕を下ろします。ここでトニーは決断していました。医者に歩行は絶望的と言われていましたが、新開発のバイオマイクロチップを使えば再び歩けるようになるのでは無いか? 損傷した脊椎にバイオチップを使用することで修復、神経伝達を正常に行うのです。当然新開発なため成果は未知数、失敗すると今以上のダメージを負うかもしれませんし、脊椎ですから寝たきりになるリスクもあるでしょう。しかし迷うことなく早速知り合いの名医に手術を頼み、トニーは車椅子を手放します。晴れやかな笑顔で小さな1歩を踏みしめながら、仲間たちへ散歩を誘いました。
f:id:ELEKINGPIT:20240114020401j:image眩しい表情でゆっくりと歩くトニー。重りから解放され、やっとリラックスできたよう。

 

〈ありのままを〉

今作の象徴は、やはりトニーが再び歩けるようになったことでしょう。晴れやかな表情はこちらまで笑みがこぼれてしまいそうなほど濁りないもの。ただ怪我を治して歩いただけではこの表情は出来なかったでしょう。そう、今作は単にトニーが怪我を治した話ではありません。恐らくストレスを抱えた状態で怪我を治療しても、歩けるようになったのみで少しも心が晴れなかったのは明白です。トニーが治療を決断したきっかけは、裁判での仲間たちの証言でした。人望の厚さ故にトニーを褒め称える言葉の数々に、本人はどれほど感動していたことでしょう。では、そもそもトニーは車椅子生活を嫌っていたのでしょうか? 私は車椅子そのものに不満はなかったと考えています。例えば不慮の事故で車椅子生活がスタートしたとして、トニーはその事実を受け入れたことでしょう。しかし今回のきっかけは錯乱した元パートナーの凶弾。自責の強いトニーであれば、恐らくそれまでの行動を振り返り自らを攻めたはず。また直前にはアーマーウォーズが行われており、トニーの精神は常に綱渡り状態でした。政府の不信感も未だ拭えていません。車椅子生活に怒りを覚えていたのではなく、自身への怒りが転換された結果なのかもしれません。故にトニーにとって車椅子は枷だったでしょう。車椅子は事件を思い出させ、また自責し、トニーを過去に縛り付けていたのですから。だからこそそれを忘れさせるパワードスーツを好んだのかもしれません。そんなトニーが治療を決断したのは、そんな自分を肯定する言葉の数々でした。ありのままの自分を受け入れて貰える感覚は最早快感に近く、どれほど嬉しかったかはその表情から明らか。ありのままで良いと分かったからこそトニーはリスクあるバイオチップの手術を受けたのでしょう。もし失敗しても、受け入れもらえると分かったから。アーマーウォーズから現在まで、自身も失敗続きだったと振り返るでしょう。しかしそんな時でさえ自身を受け入れてもらえる仲間があるとわかったのですから、その安心感は計り知れません。トニーにとって車椅子は過去と自責に縛り付ける枷でした。それを外したのは他ならない仲間たちだったのです。