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MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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ULTIMATE COMIC CAPTAIN AMERICA【2024年2月私的ベストアメコミ】

アルティメットユニバースのキャプテン・アメリカは、正史世界のそれとは違い過激な面が目立ちます。高潔の代名詞のような正史世界のキャプテン・アメリカと違い、アルティメットユニバースののキャプテン・アメリカは時に汚い手も容赦なく使います。ではその根底にあるものは? 銃を使い、敵味方に容赦もないキャプテン・アメリカ。その根底に流れる魂を本作では描き出しました。
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〈あらすじ〉

キャプテン・アメリカが囚われた。犯人はベトナム戦争の亡霊である。想像を絶する拷問の中、超人ばかりが住む村でキャプテン・アメリカは脱出することができるのか? 求められるのは肉体ではなく意思の強さだった。

 

〈決して屈することのない〉

北朝鮮が極秘に生み出した超人は、武器を持った軍人が10人で同時に相手しても勝てないほどの強さを誇っていました。新開発した血清は今のところ大きなデメリットもなく、成功したかに見えます。その様子を見たある人物は、ニヤリと笑みを浮かべてみせました。その時です。銃声と怒号が建物内に響き渡ります。SHIELDです。SHIELDが新たな超人血清を生み出そうとする実験を嗅ぎつけ、襲撃してきたのです。銃撃戦にはキャプテン・アメリカも参加していました。このままでは新開発した超人血清がサンプル体共々捕まってしまうでしょう。それを防ぐため、笑みを浮かべた人物はサンプル体を気絶、焼き殺します。焼いてしまえば体内の超人血清も残らないだろうと考えたのです。計算通り、SHIELDは超人血清の完全なサンプル採取を諦めざるを得ませんでした。しかし誤算はありました。キャプテン・アメリカの諦めの悪さです。屋上まで追跡してきたキャップを何とか迎え撃つものの、殴り合いの戦闘になってしまいます。SHIELDのエージェントも、恐らくキャップ自身も、この筋骨隆々な人物を殴り倒せると思っていたことでしょう。ところが殴り負けたのはキャップの方でした。恐るべきパワーとスピードで翻弄され、瞬く間に腹部へ拳をクリーンヒット。キャップは完膚なきまでに叩きのめされてしまいます。去り際に、筋骨隆々な人物は見せつけるように覆面を脱ぎ捨てました。その顔面には、星条旗が描かれていました。2日後。あの戦いから気絶していたキャップが目覚めます。SHIELD長官のキャロル・ダンバースによると、作戦は失敗です。超人血清のサンプルは得られず、首魁は正体が判明しただけで行方知れず。また同様の事件が起きてもおかしくありません。敵の名はフランクリン・シンプソン。ベトナム戦争に派兵された、元キャプテン・アメリカです。
f:id:ELEKINGPIT:20240215163458j:image星条旗のタトゥーを見せつける謎の人物。その正体は、アメリカの負の歴史の象徴だった。

 

第2次世界大戦でキャプテン・アメリカが死亡したと思われて以来、アメリカ政府は第2のキャプテン・アメリカを求めていました。そのためアースキン博士が開発した超人血清を再現しようと実験を続けます。完成した代物は決して完璧とは言えないまでも、能力はスティーブ・ロジャースのそれを超えうるものでした。ベトナム戦争開戦時、愛国心のある若者を募った結果、完成した代物をフランクリン・シンプソンへ投与。こうして第2のキャプテン・アメリカが誕生します。フランクリンに投与された血清は完璧ではありませんでした。そのためサイバネティック改造手術と、ステロイド薬により無理やり安定させているような状態です。フランクリンはこの状態でベトナム戦争の激戦地へ派遣され続けます。フランクリンの心は徐々に破壊されました。戦争のストレスに加え、不完全な超人血清はフランクリンの精神へダメージを与えていたのです。そして1972年、フランクリンは失踪しました。以降の記録はSHIELDに存在しません。今回の事件から恐らく、自身の血液から超人血清を作り続けていたのでしょう。キャップはフランクリンの去り際の一言が耳に引っかかっていました。アメリカを本当に支持する者として、自分を探しに来いと。キャップは飛び出します。フランクリンを探すためです。ベトナム戦争に従軍していたこと、推し量るに今でもあの戦争に囚われていること、これらからある程度どこにいるかは見当がつきます。東南アジアを駆けずり回ったキャップは、遂にそのヒントを見つけカンボジアのある村へとやってきました。村の老人へフランクリンの行方を訪ねるキャップ。ところが少し様子がおかしく思えます。違和感の正体はすぐに明らかになります。なんとキャップが投げ飛ばされたのです。この村は老若男女関係なく、全員が超人です。つまりフランクリンの私兵なのです。その事実にキャップが気付いたときには、既に手遅れでした。キャップはフランクリンに捕らえられます。待っていたのは、恐るべき拷問の数々でした。
f:id:ELEKINGPIT:20240215165719j:imageフランクリンの罠にかかり捕らわれたキャプテン・アメリカ。大勢の超人相手に、伝説の傭兵も力では負けてしまう。

 

真にアメリカを支持する者として、フランクリンはキャプテン・アメリカへ凄惨な拷問を行います。ただキャップへ「私は間違っています」と言わせるために。フランクリンはアメリカの負の歴史を無理やり聞かせ、また超人血清の影響で精神に異常をきたした子どもたちがのたうち回る様子を見せ、また肉体的な拷問も常に行い続けました。これらはすべてアメリカ生まれの苦しみだと言っているようです。それでもキャップは決して屈しようとはしません。絶対に自分が間違っているとは口にしません。ある日、キャップを捜索しに来たSHIELDのエージェントが捕まりました。フランクリンはそれをキャップの目の前で拷問、1人は殺害し、1人は腹をナイフで割くという拷問の結果、「間違っていました」と言わせることに成功。その後殺害されます。更に拷問は続きました。それでもキャップは屈しません。捕まったあの時と全く同じ不屈の精神で立ち向かいます。ある日のことです。キャップのいる監獄に、毒蛇が紛れ込みました。キャップはそれを噛み殺し、毒液をフランクリンへ吹きかけました。こうして隙のできた間に監獄から脱出。キャップとフランクリンの一騎打ちが再び始まります。確かに単純な力の差ではキャップはフランクリンに劣るかもしれません。しかし、キャップにはそれ以上の力がありました。精神力です。それはフランクリン自身が最も目の当たりにしたことでしょう。殴り飛ばされたフランクリンは最後に屈してしまいました。
f:id:ELEKINGPIT:20240215193556j:image怒りの拳を食らうフランクリン。最後に勝負を分けたのは、精神力の差だった。

 

〈不屈の精神力〉

今作には2人のキャプテン・アメリカが登場しました。1人はスティーブ・ロジャース。もう1人はフランクリン・シンプソンです。2人は超人血清を投与され、それぞれ激戦地へ送られました。その後2人は終戦を見ることなく失踪します。2人は多くの共通点があるのです。しかしそれ以上に、2人は決定的な違いがあることを皆様は直感で悟っているはずです。2人の違いは精神力の差だと。超人血清の副作用や未完成品がどうかは脇に置いておくとして、2人には大きな違いがあります。それはアメリカの負の歴史に屈したかどうかです。

フランクリンはアメリカに絶望しました。それはベトナム戦争がいかに凄惨だったかを想像すると分かるかもしれません。フランクリンは元々愛国心あふれる若者でした。歪んでしまいましたが、それは今でも変わりません。ところがゲリラと市民の区別をつけず、動く者全てを敵とみなして撃ち殺すアメリカ軍の姿のどこに理想があったでしょうか? 戦争というものは等しく非難されるべき最も醜悪な行為です。そこで自国軍の非人道的な戦いを目にしたフランクリンは絶望してしまったのでしょう。だからこそフランクリンはかつて夢見たアメリカへと修正するため、力をつけました。一方スティーブは、それらの事実を知ってもなお絶望していません。世界最悪の戦争と呼ばれた第2次世界大戦を戦ったスティーブは、ナチスという忌むべき悪を目の当たりにします。また、フランクリンの口にするアメリカの負の歴史を全て「知らないとでも思ったのか」と言い返します。スティーブはそれらをすべて受け止めた上で、今でも星条旗を纏い「キャプテン・アメリカ」として立っているのです。「キャプテン・アメリカ」に求められることは時代を経るごとに多くなったように思います。戦争の勝利と兵士の士気向上だけでなく、理想と自由、アメリカンドリームもその両肩に乗りました。スティーブはそれを理解しているのでしょう。だからこそ絶対に屈しないのです。自身の敗北は、フランクリンも夢見た「理想のアメリカ」の敗北へと繋がってしまうのですから。