アメコミを読みたいらいとか

MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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【第1回】アイアンマン視点で見るシビルウォー

シビルウォーは、未だに賛成派と反対派どちらが良いかという議論が尽きません。特にトニーの汚い手を厭わないやり方と、キャップの姿勢がより一層状況を混沌としているでしょう。そこで今回は、トニーの視点からシビルウォーを紐解くことでその真意を図りたいと思います。題して、「アイアンマン視点で見るシビルウォー」です。要するにシビルウォーについてあーでもないこーでもないとオタク語りをする記事となっておりますので、普段より長くなってしまっております。ご了承ください。
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キャプテン・アメリカ編はこちらelekingpit.hatenablog.com

 

関連作品及び日本語版関連作品はリンク先でお確かめください。

 

〈市民から見た超人登録法〉

そもそも超人登録法は誰のために、いかにして成立したのでしょうか? 超人登録法成立の大きなきっかけの1つにスタンフォードの悲劇が挙げられるでしょう。ティーンヒーローチームのニューウォリアーズと戦っていたナイトロは、学校の付近で大規模な起爆を起こしてしまいます。死者600名以上を出したこの事件は、後にスタンフォードの悲劇と呼ばれるようになりました。以来ヒーロー活動に何らかの規制を求める声が大きくなったことは明らかです。しかし超人登録法の草案は、スタンフォードの悲劇以前から存在していましたしました。市民はそれ以前からずっとヒーロー活動に対する懸念を抱いていたのです。Road to civil warではその旨の発言がされています。イルミナティが結成されるシーンにて、クリー/スクラルウォーの話があったのです。当時市民は初代キャプテン・マーベルがクリー人だと知り、アベンジャーズの解散さえ要求していました。既にこのときから市民はヒーローを不安視し、それが大きな声となっていたのです。しかしまた、Iron man civil warではトニーはある計画について触れています。ワイド・アウェイク計画です。それはセンチネルが空を覆い監視する地獄の社会でした。政府もまたヒーローを監視、規制する方法を模索していたのです。これらを後押しするきっかけとなったのが、最近になって募りつつあったヒーローへの不信感でしょう。
f:id:ELEKINGPIT:20240207204531j:image超人登録法成立のきっかけとなったスタンフォードの悲劇。しかしその下地は以前から出来上がっていた。

 

例えばスタンフォードの悲劇より1週間前の出来事とされるCaptain America Red menaceでは、クロナス社がキャプテン・アメリカの戦いに巻き込まれ、大きな被害を被ったと非難しています。CEOのルーキンは、ここで超人登録法の賛成を表明しているのです。また更に以前のWinter soldierでは、ウィンター・ソルジャーの手でフィラデルフィアにセットされた爆弾が爆発、街に大きな被害が出てしまいました。同じくスタンフォードの悲劇以前、Iron man Execute programでは、敵に操られたアイアンマンが旅客機を墜落させています。Road to civil warでは、House of Mやハルクのラスベガス襲撃についても触れられていました。特にHouse of Mはヒーロー側が事件の実態を明かさなかったことが予想されます。ミュータントの大半が能力を失うという大事件の詳細が伏せられているのですから、市民側は不満を抱いても不思議ではありません。そのような下地が出来上がっている中で起きたのがスタンフォードの悲劇だったのです。この事件がおきた時点で登録法の成立は不可避であったことが分かります。また、そうでなくともヒーロー側がコラテラルダメージを軽視していることが垣間見える描写はあります。例えばIron man civil warでは、アイアンマンの旅客機墜落事件についてキャップが「君のせいじゃない」と擁護する描写がありました。もちろんここで責め立てることが正解だとは思いませんが、一切の責任なく「ヴィランに操られていました」だけで終わらせてしまうのは、それで納得できるかは疑問です。後年の作品でも被害にあった建物を放置するアベンジャーズの姿が描かれており、ヒーローがコラテラルダメージを軽視している姿勢は顕著です。
f:id:ELEKINGPIT:20240207205838j:image超人登録法の賛成を表明するルーキン。市民の不満は着実に蓄積されていた。

 

〈アイアンマンvs超人登録法〉

そんな超人登録法ですが、当然問題もあります。第1に、その身分を政府へ登録しなくてはいけない点でしょう。もし政府のデータベースにヴィランがアクセスした場合、ヒーローの正体が一気に拡散されるおそれがあります。第2に、登録したヒーローは給料が保証される代わりに政府やSHIELDの命令に従わねばならないことです。これでは事実上SHIELDのエージェントとなってしまいます。また、当のSHIELDはフューリーからマリア・ヒルへと長官が変わったこともありヒーローとの間に溝が生まれていました。その現状でヒーローヘ命令を下すのは何かと問題があるのは明白。また、超人登録法によりヒーローを監視する機関が生まれた場合、機関が腐敗してしまう危険性もあります。これらの問題を解決できなくては、ヒーロー側が登録したに反対するのは当然です。そこでトニーは、2つのアプローチで超人登録法の変化を迫ります。内部改革と外部圧力です。1つは分かりやすいでしょう。Road to civil warにて、トニーはイルミナティヘ超人登録法案について議論しようとします。この時トニーは両手を上げて賛成すべきだと提言していました。積極的にヒーロー側が賛成することで、有利な条件での法案成立を目論んだのです。しかしこれは却下されてしまいます。そこでトニーが行ったのが、外部圧力です。この外部圧力も2つの方法から行っていました。スタンフォードの悲劇が起きる以前の超人登録法は、恐らく選挙での票集めのための政策だと思われているフシがありました。同作にてファンタスティック・フォーのスーザンのセリフでそれが現れていますし、トニーも同様に考えていました。そこで行った方法が、超人登録法諮問委員会に出席し、法の成立までできるだけ時間を稼ぐことでした。金や票に繋がらないと政治家が悟れば法案が取り下げられると考えたのです。また、同作でトニーはチタニウムマンを雇い自身を襲撃させています。超人登録法の成立に反対しているトニーを殺すことで無理やり法を成立させようとしている、というシナリオを描いて。諮問委員会ヘ、超人登録法の成立がヴィランにとってどれほど得があるかを示すためです。こうして内部改革と外部圧力の両方で超人登録法の成立を阻止、あるいは変化を促したトニー。しかしこのタイミングでスタンフォードの悲劇が起き、成立は即刻不可避のものとなってしまいました。
f:id:ELEKINGPIT:20240207213315j:image議会へ超人登録法の不要さを説くトニー。トニーもまた、超人登録法の成立を反対していた。

 

法に従えばSHIELDや政府の命令に従うこととなり、法に背けば国家の敵として実質ヴィランと同じ扱いになる。超人登録法の成立が不可避となった時点で、内戦が避けられないものだとトニーは悟ったでしょう。トニー自身、現状の超人登録法は反対派です。しかしもっと最悪なのは、ヒーローと国家が対立を起こしてしまうことでしょう。実際What if? civil warでは、キャップ率いるヒーロー達が政府と対立し多くが死亡してしまいました。多くが死亡しなくとも、政府と国家の対立は絶対に避けなくてはなりません。もしそうなれば、守るべきものを守ることができなくなってしまうでしょう。内戦が始まる以上、賛成派に求められることは必勝不敗。また真っ先に賛成派に与することで有利な条件での超人登録法改定が望めるでしょう。トニーが賛成派の筆頭に立ったのはこのあたりが理由だと考えられます。このあたりはIron man civil warにてトニーが語ったとおりです。理想的な勝利を目指すキャップと違い、絶対に勝たなくてはヒーロー社会に未来がないことを見抜いていたトニーが権謀術数を用いたのもこのためです。そしてトニーの目指した内部改革ですが、これはトニーがSHIELDの長官となったことで少しずつ達成されていました。賛成派ヒーローが事実上SHIELDのエージェントとして使われるリスクはトニーが長官となることで解消され、ほとんど今まで通りのヒーロー活動が可能となっています。また、トニーは戦後50ステートイニシアチブという計画を開始します。これはアメリカの全ての州にヒーローチームを配置することで治安向上を図るものでした。これは後にキャップも絶賛するほどの施策であり、また超人登録法のシステムを上手く利用していることは明白。マリア・ヒルとヒーロー間での溝もトニーが間に入ることでクッションとして機能するように。超人登録法が施行された当時と比較すると、驚くほど改善されていることが分かります。
f:id:ELEKINGPIT:20240208203619j:image100年先をも見通すトニーが予見した内戦の未来。必勝不敗が絶対条件の内戦に、手段を選ぶ余裕はなかった。

 

必勝不敗が絶対条件のトニーですが、最も円満な解決法はもちろん戦いではなく話し合いです。当然トニーもそれはわかっています。停戦の交渉が行われたのは、本編とIron man civil warの2回。またハッピーの死についてトニーがキャップへ直接問い質すシーンも、すぐに話し合いは中断となってしまいますが交渉のチャンスと捉えることができるでしょう。その全てが失敗に終わっているのですから、本編通りの結果となってしまうのは仕方のないことだと考えられます。そんなトニーの手腕を市民はどれほど評価していたのでしょうか? Captain america civil warでは、超人登録法の賛否を問うアンケートが行われていました。当時は既に内戦が勃発していた頃。そのうえで両勢力を市民がどう評価しているのかを代弁するアンケートです。結果は賛成派が65%、反対派が30%となっていました両方をあわせても100%にならないのは、恐らくその他の回答や無回答があったのだと思われます。ともかく、市民は圧倒的に賛成派=トニーを評価しているのです。どれほどトニーの行動が知れ渡っているかは分かりませんが、少なくともトニーの手腕は評価されていると考えていいでしょう。世間はそれほど超人登録法寄りの考え方になっていたと言えるし、それほどヒーローのコラテラルダメージを気にする人々は多かったのです。
f:id:ELEKINGPIT:20240209093929j:image超人登録法の賛否を問うアンケートと、それを見つめるバッキー。市民はキャプテン・アメリカよりも法を選んだ。

 

〈まとめ〉

トニーは元々超人登録法に完全に賛成しているわけではありませんでした。むしろヒーロー達が超人登録法へ賛成の意を示すことで、その条項を少しでも皆が納得できるものに変えようと企んでいたのです。しかし法の施行と内戦の勃発が決定的になると、トニーは必勝不敗が絶対条件の戦いを強いられていました。勝たなくてはヒーローが政府の敵となるならば、ヒーローを守るためにも賛成派の筆頭として立とうと考えたのです。そのためには手段を選んでいる余裕はトニーにはなかったと考えられます。例えばスパイダーマンの勧誘も強引だという意見を見かけましたが、その知名度を利用して多くのヒーローを味方に巻き込むことで少しでも政府の手から守ろうとしていたのでしょう。また、Iron man civil warでは、スパイダーマンの離反には驚いたという趣旨の発言がありました。トニーは本気でスパイダーマンが超人登録法を賛成すると「予測」していたのです。また、このような余裕のない姿勢を見ても市民はアイアンマンを支持していました。内戦の経過を踏まえてもなお市民は賛成派が多数を占めているのです。

理想的な勝利を目指すキャップと、現実的な妥協をも許して確実な勝利を狙ったトニー。2人の行動理念の違いは、シビルウォーにおける読者への印象の違いという形で顕著に現れました。しかしそれはあくまで印象。武力による強引な変革と内部改革とではどちらがより平和的か目に見えています。また、ここからトニーが権力欲に溺れてSHIELDの長官になったわけではないことも推察できるでしょう。時間のかかる内部改革において最も手っ取り早い方法が、権力を獲ることなのです。これにより超人登録法の問題点であった、事実上SHIELDのエージェントとなることも解決されます。そして結果的にではありますが、トニーがSHIELDの長官になった間に登録されたヒーローの身元が外部へ漏れることはありませんでした。反対派が指摘する問題点の多くはトニーがSHIELDの長官となったことで解決していたのです。