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MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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【第3回】シビルウォー最大の悲劇

ヒーロー同士が戦ったシビルウォー。今なおそれは悲劇として語られることが多い作品でしょう。確かに多くのヒーローが望まない戦いを強いられた姿は悲劇と言えます。しかしシビルウォーという物語の悲劇はそれだけではありません。今回も普段の記事では書けない内容をオタク語りするコラムとなっております。
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〈超人登録法とは〉

超人登録法は、ヒーローの身分を政府に登録することを義務付ける法です。ヒーロー活動を行う者は等しくその身分を政府へ登録する必要があります。また成立時点ではSHIELDの命令に従わねばならず、適切な訓練を受けることも義務付けられています。メリットはあります。訓練を受けることで、周囲への被害や無謀な戦いが少しでも少なくなることが期待できるでしょう。またヒーローへ給料が支払われるため、ヒーロー活動が私生活を犠牲にしたボランティアではなくなります。しかし同時に、大きなデメリットも存在していました。ヒーローの身分を政府へ登録するとして、それをハッキングが得意なヴィランが流出させた場合は? またSHIELDの命令に従う義務があるならば、事実上SHIELDのエージェントとして活動せねばならないでしょう。またヒーローの力を個人または少数の集団が利用できる制度となっているため、腐敗した権力にヒーローの力が利用されてしまう危険性があります。成立までの経緯は前回と前々回で述べた通りですが、一言でまとめるなら「ヒーローへの不信感が募った結果」でしょう。ハウスオブM、ハルクのラスベガス襲撃、アイアンマンの旅客機撃墜、キャップのロンドン強襲、市民の知る情報の範囲では不信感がどんどんと募っていったに違いありません。Road to civil warではその不信感がクリー/スクラルウォー、つまりかなり昔から存在していたことが言及されています。大きなデメリットとメリットを抱えながら成立された超人登録法は、市民の不信感が累積した結果なのです。
f:id:ELEKINGPIT:20240301205405j:image超人登録法成立を求める市民のデモ。当然のようにヒーローが存在する世界で求められたのは、その規制だった。

 

<ヒーローvs超人登録法>

そんな超人登録法の賛否を争ったのがシビルウォーだとされています。しかしその筆頭となったアイアンマンとキャプテン・アメリカの主張は、どちらも超人登録法に反対していました。キャプテン・アメリカは自由と正義の守護者として、権力腐敗の温床となる悪法には断固反対の立場を取っていました。従うことさえ自らが守る自由と正義に背くとして、成立が確定的となった時点で地下へ潜ります。一方アイアンマンは、超人登録法が成立するまでは反対の立場を取っていました。その後、登録法が成立不可避となって以来アイアンマンは積極的に賛成の立場を見せます。この真意は、登録法にヒーロー側から賛成の立場を取ることで有利な条項を盛り込もうとするためのものでした。アイアンマンもキャプテン・アメリカも、超人登録法に反対していたのです。では何故2人はシビルウォーで争う必要があったのでしょうか? 2人が争ったのは超人登録法の是非もですが、成立後の未来についてが大きいでしょう。権力腐敗を危惧し断固反対するキャップと、ヒーローが国家と敵対する未来を恐れ内部革命を提唱するアイアンマン。2人が憂慮する未来は、それぞれWhat if? にて描かれていました。What if? civil warではシビルウォーが始まる前にアイアンマンが死亡してしまい、ヒーローコミュニティをキャップが率います。その結果ヒーローと政府の全面戦争に突入。多数の死者が出る代わりにセンチネルが過激ながら治安維持を行う世界となってしまいました。一方What if? fallen sonではシビルウォー後にアイアンマンが死亡、キャップが生き残りました。その結果超人登録法は政府主導で運営され、ヒーロー訓練施設であるキャンプ・ハモンドが強権で解体されます。ヒーローコミュニティが政府によって独裁的に支配されつつあったのです。2人が憂慮する未来は、それぞれ可能性としてあり得た事がわかるでしょう。
f:id:ELEKINGPIT:20240302192053j:image2人が争った、登録法成立後の最悪の未来。来てはいけない未来のためにシビルウォーは行われた。

 

2人の憂慮する未来は、シビルウォー直後に訪れることはありませんでした。しかし後にオズボーンがSHIELD長官となったことでこの体制が崩壊し、どちらの未来も叶ってしまいます。ならば2人が争う意味はあったのでしょうか? 争うことが2人にとってベストアンサーだったのでしょうか? オズボーンのような人物に超人登録法を利用させないために内部改革が必要だったことは確かでした。オズボーン体制の崩壊後、キャプテン・アメリカがSHIELDの長官となっていることからもわかるでしょう。キャンプ自身が内部改革に乗り出そうと意欲を見せたのです。そして結果、超人登録法は解体されます。悪法は内部改革によって消えたこととなります。しかしそれは、キャプテン・アメリカでなければできなかったことでもあるのではないでしょうか? What if? civil warではキャプテン・アメリカとアイアンマンが協力して内部改革に乗り出す姿も描かれていました。それによって政府との信頼関係が構築され、ヒーローの黄金時代が到来します。内部改革はキャプテン・アメリカが行うことで積極的に進んだのです。アイアンマンでは政府の信用を完全に勝ち取る事ができず、またキャプテン・アメリカの断固反対では全面戦争を生むきっかけとなってしまう。2人は争うのではなく、協力しなくてはならなかった。それがシビルウォーにおけるベストアンサーなのです。同じ立場を取っていたにも関わらず、2人は協力できず内戦にまで発展してしまった。これがシビルウォー最大の悲劇です。
f:id:ELEKINGPIT:20240302195556j:image政府との信頼関係が構築され、ヒーロー黄金時代が訪れた「もしも」の世界。これが本来あるべき世界だったのに。

 

〈まとめ〉

シビルウォー最大の悲劇とは、同じ目的で戦っていたキャプテン・アメリカとアイアンマンだと言えます。しかし2人は成立後に来るであろう「回避すべき未来」のために争ってしまいました。即ち、権力腐敗によってヒーローコミュニティが支配されてしまう世界と、ヒーローと政府の全面戦争です。しかしそれらは、2人が争ったことで巡り巡ってどちらも訪れてしまいます。回避するには争うのではなく、協力しなくてはならなかったのです。もしもの世界で描かれた、2人が協力するまでの経緯は非常に単純なものでした。暴走したソーのクローンを2人で倒し、改めて2人で話合いの場を設けたのでした。共通の敵を倒すために協力するというのは、クリー/スクラルウォーよりも更に以前、アベンジャーズが結成されて以来脈々とマーベルユニバースに受け継がれていたものでした。過去にも争ったことのある2人ですが、たった一言で和解する場面もありました。現代に蘇った過去の英雄と100年先の未来を築くフューチャリストは、互いを真に尊敬し、誰よりも互いのことを理解しているからこそ協力できるはずでした。しかしそれが裏目に出てしまいました。Iron man civil warでは、アイアンマンはキャプテン・アメリカの亡骸に向けて「君だから全力で戦えた」と涙を流しているシーンがありました。誰よりも信頼しているからこそ、振り上げた拳を緩めることなく全力で戦ったのです。協力することが2人にとって最良の選択肢だったのに。