アメコミを読みたいらいとか

MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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ASTONISHING X-MEN vol1 GIFTED

2000年代のX-menは、映画の公開もあり多くの人々が注目するヒーローチームとなったでしょう。そんな中スタートしたのが本シリーズです。冠詞は伝統的な「Uncanny(不気味な、異様な)」から「Astonishing(驚かせる、仰天させる)」へ変わったことからも、新たなステップへ踏み出そうとしている事がわかるでしょう。シリーズ第1作目となる本作は、厳しい差別へ真正面から向き合うこととなります。
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日本語版関連作

 

〈あらすじ〉

人類とミュータントの平和的共存を夢見て創設されたX-menは、再びその目標を達成するためエマ・フロストとスコット・サマーズ再編された。しかしその矢先、ミュータントを激震させる薬が完成した。ミュータントを「治療」するワクチンだ。

 

〈進化か病気か〉

恵まれし子らの学園を再び立ち上げたX-men。多くの新入生は全員ミュータントであり、通常の授業に加え能力の使い方や訓練も行う予定です。更にスコットはコスチュームを一新してヒーローチームX-menを再スタートさせる気でいました。X-menが創設された、人類とミュータントの平和的共存を再び目指すためです。世界から憎悪の目を向けられているからこそ、共存をアピールするためです。エグゼビアのいない体制で、X-menは改めて活動を始めます。トラブル続きではありますが、その絆は誰にも負けません。そんな新X-men最初の活動は、ビルの一角を占領したテロリストの撃退です。まずは慎重に人質を救出。キティの物体をすり抜ける能力を使えば容易に可能です。更にエマのテレパシーで敵の脳を撹乱、隙が出来たらビーストとウルヴァリンのコンビが突入します。サイクロップスの的確な指揮でテロリストは首魁を除いてあっという間に制圧されました。残る首魁は、なんと宇宙人だと思われます。ブレイクワールドからやってきたオルグという人物は、歴戦の勇士であるX-menと単独で渡り合うほどの戦闘力を見せます。奇想天外の一手で何とかオルグを撤退させるに至ったX-men。スコットはここからが本番だといいます。ビルの外には大勢のマスコミが待っていたのです。投げかけられた数々の質問に軽口を挟みながらも答えるX-men。死傷者0人で事件を解決したのですから、その成果を存分にアピールします。ところがビーストは気になる質問を耳にしていました。ある遺伝子学者が発表した、「ミュータント治療法」について知っているか? X-menがテロ事件の、解決に動いている間、「ミュータント治療薬」が発表されていたのです。
f:id:ELEKINGPIT:20240227201550j:image「ミュータント治療薬」を発表するラオ博士。これがミュータントの運命を大きく狂わせる一言となった。

 

学園の生徒たちは苦悩し、混乱し、あるいは歓喜していました。少なくともパニック状態だったことは間違いありません。発表したラオ博士はビーストと旧知の仲で、つまらない冗談を堂々とはっぴょうする人物ではないといいます。恐らく治療薬は何らかの確証があったからこそ発表されたに違いありません。ビーストは単身ラオ博士の下へ向かいます。新薬は本当に効果があるのか? そのサンプルを貰うためです。一方スコットはSHIELDのニック・フューリー長官を訪ねていました。テロリストの使っていた装備がSHIELDの最新鋭かつ試作のものだったのです。とはいえフューリーも何故これがテロリストに使われたのかさっぱりわかりません。SHIELDでも調査を続けると答えは返ってきましたが、この線からでは手詰まりでしょう。スコットはすぐ学園へと帰ってきます。学園ではビーストが新薬サンプルの解析を進めていました。そこで分かったのは驚くべきことです。なんと新薬の中には、死亡したミュータントのDNAサンプルが使われていたのです。つまり新薬開発にあたりミュータントが人体実験として使われていたのです。X-menはラオ博士の研究所へ急行することになりました。ミュータントの人体実験は、被検体の死によって終わっているかもしれない。できればこれが早とちりや勘違いであって欲しい。そんなビーストの願いも虚しく、研究所ではミュータントの死体が見つかりました。一方研究所の地下へ潜入したキティは、ある人物を発見します。死んだはずのコロッサスです。コロッサスはある戦いの果てに死亡したと思われていましたが、ここでずっと人体実験され続けていたのです。
f:id:ELEKINGPIT:20240227212149j:imageキティが見つけたのは、死んだはずのコロッサス。しかし真実は被験体として囚われ続けていたのだ。

 

コロッサスが地上のX-menと合流する頃、研究所をブレイクワールドのオルドが襲撃します。X-menを攻撃するオルド。ラオ博士とオルドは協力関係にあったのです。混乱するX-menですが、コロッサスの一撃でオルドはノックアウトされます。その時です。X-menの周囲をSHIELDが包囲します。SHIELDだけではありません。そこには外宇宙からの脅威を排除するために新設された、SWORDと呼ばれる組織の長官アビゲイルの姿もありました。隙を見て逃げ出すオルド。しかしX-menはそれを無視、真相追求を優先します。何故SHIELDの関連組織がここにいるのか? すべての謎はアビゲイルから語られました。ブレイクワールドという惑星からやってきたオルドは、ミュータントを絶滅させるためラオ博士へあるデータを提供したのです。それがラオ博士の発表した新薬でした。何故そのようなことをしたのか? ブレイクワールドは時間の影とも言える現象が発生し、少し先の未来が見えるのです。それによると、ブレイクワールドはミュータントの手で滅ぼされるのだとか。それもX-menの手で。誰がどのような方法で何故滅ぼすのかはわかりませんが、これは確定している未来。それを回避するため、ミュータントを無力化する薬をラオ博士に作らせたのでした。SWORDは星間戦争を阻止するためにオルドへ協力していたことも語られます。ミュータント、それもX-menが近い将来惑星を1つ滅ぼす。確定的だという未来の行方はどうなるのでしょうか?
f:id:ELEKINGPIT:20240228205219j:imageアビゲイルの口から語られる真相。1つの惑星を守るため、命を賭けた行動の果てだったのだ。

 

アイデンティティと病気〉

本作では、ミュータントを「治療」するという言葉が何度も登場していました。これはグロテスクとでも言うべき恐ろしい状態です。アイデンティティを病気と捉えたのですから。本作はそんなアイデンティティを病気として捉えることの危険性を真正面から描いています。

アイデンティティを病気と捉えることの何が危険なのでしょうか? それはマイノリティにとってのアイデンティティ抹消であり、マジョリティにとっての都合のよい迎合です。私達人類は、かつてマイノリティ固有のアイデンティティを抹消し、マジョリティに迎合するよう扱ってきた歴史があります。例えばアイヌの文化を野蛮と捉え、アイヌ語の使用を禁じ日本人として扱ったことなどがそれに当てはまるでしょう。アイデンティティの抹消で1つの文化と言語の生存性をハッキリと破壊し、マジョリティである日本人として扱うことでアイヌ人という自覚さえ剥奪してしまいます。アイデンティティの抹消と剥奪は1つの文化を破壊する危険さえ容易にあり得るのです。そして病気扱いすることでさらなる差別を生む可能性があります。病気として扱うことは非常にグロテスクなのです。不愉快な喩えですが、「非白人病だから白人に治してあげる」と言われたらそれがどれほど恐ろしいことか想像できるのではないでしょうか。

人は誰しもマジョリティでありマイノリティだと私は考えています。ミクロな視点とマクロな視点の違いで、人はマイノリティにもマジョリティにもなれるのです。つまり、その人がマイノリティかどうかは多面的に見たその人のほんの一面に過ぎないのです。人は「マジョリティでない」という理由で人を差別してしまいます。しかしマイノリティとはその人の一部の属性に過ぎず、その人の全てではありません。一方でそれに苦しんでいる事実があったとして、間違っても「治療する」と言ってはいけないことは明白でしょう。それはその人にとっての大事な一面ですし、親切心だったとしても傲慢でグロテスクです。