アメコミを読みたいらいとか

MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

MENU

【第8回】クラシックアイアンマンの魅力

1963年に誕生して以来、多くのファンを魅了し続けてきたアイアンマン。時代を経るごとに様々な要素が付加され、更に進化し続けることがファンを引き込み続ける要因の1つと言えるでしょう。では時代を遡ればアイアンマンの魅力は半減してしまうのか? そんな事はありません。クラシックなアイアンマンにはその時代にしかない魅力があります。今回も不定期更新のオタク語りコラムです。
f:id:ELEKINGPIT:20240406202702j:image

 

前回のコラムはこちらelekingpit.hatenablog.com

 

〈超人と常人〉

最初期のアイアンマンは、読者にMARVEL(驚異)を届ける存在だったと言えるでしょう。パワードスーツに隠された驚くべき機能とそれを生み出し使いこなす頭脳、あっと驚く戦い方。それは恐らく現代の読者の予想すら裏切る展開で私達を楽しませてくれます。また彼の国の共産主義と戦う戦士という側面も忘れてはなりません。当時のイデオロギーを背負ったキャラクターとして、その是非はともかく政治的な立場を明確に表していることも、忘れてはならない重要な要素です。最初期のアイアンマンの代表的な発明品に、小型トランジスターがあるでしょう。これにより超強力な磁力を生み出し、車を何台も浮かせジャグリングをして見せ、また銃弾もミサイルも簡単に軌道を変えてしまいます。更にパワードスーツを改良し、新たな姿を見せてくれる様も読者に驚きを与えたでしょう。最初は鉄の装甲から金色に、そして現在でも馴染みのある赤と金色の軽やかなパワードスーツへと変貌を遂げました。奇想天外な発想故の天才性を発揮していたヒーローだったと言えます。シルバーエイジと呼ばれる当時の代表的なヒーローにファンタスティック・フォースパイダーマンが挙げられます。アイアンマンはそんなヒーローとは違う方向で読者にワクワクの体験をもたらしたことは間違いありません。頼もしいヒーローの1人として最前線に立ち続けたアイアンマン。その姿は、私達にマーベルでワンダーな姿を届けてくれるスーパーヒーローの1人だったに違いありません。
f:id:ELEKINGPIT:20240406205103j:imageヴィランに一撃を与えるアイアンマン。その姿に誰もが夢中になった、憧れのヒーローだった。

 

そんなアイアンマンヘ大きな転機が訪れます。Demon in a bottle編です。シルバーエイジの頃にもアイアンマンとトニー・スタークの関係性に悩む場面は描かれました。人間らしさを肉付けした悩めるヒーローです。それをさらに発展させたのがDemon in a bottle編と言えるでしょう。SHIELDによるスターク社の買収計画、アイアンマンの殺人、様々な要素が重なった結果、トニーはアルコール依存症へと陥ってしまいました。シルバーエイジの頃はどちらかというとアイアンマンの超人性が発揮されていたといえるでしょう。それが浸透してきたからこそ、アイアンマンは「常人」へと「進化」します。パワードスーツからトニー・スタークへとフォーカスを当てるようになったのです。別の言い方をすると、アイアンマンというヒーローコミックの主人公は、アイアンマンではなくトニー・スタークになったと言えるでしょう。超人でありながら常人という、ダブルアイデンティティを持つようになったトニー。以降はその狭間で揺れる姿が描かれるようになりました。泥臭い人間性があらわになります。車でジャグリングをするような驚異的なシーンは鳴りを潜め、代わりに人間として悩むシーンが増えるようになりました。Demon in a bottle編では泥酔した挙げ句アイアンマンとしてヒーロー活動を開始、しかし中途半端に投げ出してまた酒を飲む姿が印象的です。第2次アルコール中毒期と呼ばれる時代では、心をへし折られたトニーは酒に酔いつぶれてアイアンマンであることを放棄してしまいます。これがもしキャプテン・アメリカなら違った結果となったでしょう。しかしトニー・スタークは私たちと同じ常人だからこそ、苦悩し、挫折するのです。
f:id:ELEKINGPIT:20240407084605j:image酒を飲み、ただアイアンマンのヘルメットを見つめるトニー。その挫折は常人ならではのものだった。

 

Demon in a bottle編以降は、アイアンマンに常人というアイデンティティが与えられました。それは同時に、もう1つ新たなアイデンティティを付加させる結果となります。それが「鉄人」です。もちろんそれは運動能力が極めて高いという意味ではありません。トニーは何度も苦悩と挫折を繰り返します。情けない姿に見えるという方もいるかもしれません。しかしアイアンマンはヒーローコミックです。最後には必ずヒーローとしてトニー・スタークは戻ってくるのです。何度も苦境に陥り、苦悶し、苦渋を味わうトニー。その挫折を乗り越えるからこそトニーはヒーローだと言えるでしょう。何度くじけても最後には必ず立ち上がる姿は、常人でありながら誰にも真似できない「鉄人」と呼ぶことができるのではないでしょうか。鉄人だからこそアイアンマンはトニーにしか務まらないのです。オバディア・ステインとの戦いまで、トニーは何度も挫折を味わいました。重度のアルコール依存症となり、キャプテン・アメリカからも見捨てられたトニー。その後自殺未遂まで行い何とか立ち直るも、パワードスーツの着用を拒否してしまいます。当時はローディがアイアンマンの代わりを務めていましたが、それが原因で大きな溝が生まれてしまいます。そして立ち上げた新会社を仲間とともに葬り去られた時、ようやくトニーはアイアンマンに立ち戻りました。壮絶な挫折から見事トニーは復活したのです。どのような試練も挫折も、最後には乗り越える事ができる。常人というフォーカスが当てられたトニーは、その乗り越える力から鉄人というもう一つのアイデンティティを獲得するに至ったのです。
f:id:ELEKINGPIT:20240407083818j:image決意を新たにパワードスーツを着用するトニー。壮絶な挫折から立ち直った鉄人の姿だった。

 

〈まとめ〉

アイアンマンは時代の変遷とともに大きく姿を変えてきたヒーローの1人であると言えます。最初はパワードスーツの驚くべき機能や装備、それを生み出し使いこなすトニーの頭脳にフォーカスが当てられました。車を何台も磁力で浮かせてジャグリングしてみせ、あっと驚く手段で敵を倒すアイアンマン。その姿は私達に驚異をもたらす超人そのものでした。しかしDemon in a bottle編を皮切りに、アイアンマンという物語の主人公はアイアンマンからトニー・スタークへと移り、常人というアイデンティティにフォーカスが当てられます。酒に酔いつぶれて中途半端にヒーロー活動を行ってしまう姿は、超人性よりも常人であることを強調していたように思えます。トニーは私たちと同じ常人だからこそ苦悩し、挫折するのです。しかしそれは、トニーにもう1つのアイデンティティをも与える結果となりました。何度も苦境に陥り、苦悶し、苦渋を味わったトニー。しかし最後には必ず立ち上がるのです。その姿は正に「鉄人」と呼ぶに相応しいでしょう。重度のアルコール依存症からローディとの確執、仲間の死という壮絶な経験を味わっても最後にはトニーは立ち上がりました。それは決して挫けない超人にはできず、そして私たち常人にも難しいことでしょう。鉄人というアイデンティティはトニーにしかないものなのです。このように、クラシックアイアンマンには超人、常人、鉄人という3つの側面からアイアンマンの魅力が詰まっています。超人として活躍するヒーローも、人間として苦悩するトニー・スタークも、その時代ならではの味付けで堪能することができるでしょう。やがてそれは現代まで継承されます。アイアンマンのテーマの1つに「進化」が挙げられると私は考えています。その進化の軌跡を見ることができるのもまたクラシックアイアンマンの魅力ではないでしょうか。そしてそれらの軌跡は、今日のアイアンマンの礎となっているのです。