アメコミを読みたいらいとか

MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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TALES OF SUSPENSE #40

今回紹介するコミックはTALES OF SUSPENSE #40、アイアンマン第2話です。アイアンマンのオリジンを描いた前回、そのあらすじや大筋はほとんどの方がご存知だったでしょう。しかしアイアンマンの原点は決して第1話のみに詰まっているというわけではありません。インセン教授を失い、胸には一生外せない(と当時は思われた)鉄の鎧。大きすぎる十字架を抱えたまま前回は終了しましたが、それだけではヒーローとしてのアイアンマンは描かれていません。やがてアベンジャーズ創設期メンバーにも選ばれたアイアンマンは、ヒーローとしてどのように名を上げたのでしょうか? MCU版とは全く違うストーリーに驚く方も多いでしょう。
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※なお今回は紙の書籍から画像を引用させていただきます。見えにくい等ございましたらコメントで指摘して頂ければ幸いです。

 

〈あらすじ〉

ベトナムから帰還したアンソニー・スタークは、3つのライフスタイルを使い分け忙しなく生活していた。天才発明家、全米を魅了する大富豪、そしてアイアンマン。鋼鉄の力を正義のために使うと誓ったアンソニーに襲いかかる相手は、驚くべき正体を隠していた!

 

〈異星人の魔の手〉

ベトナムから帰ってきたトニーは、それ以前と比べ生活が一変していました。ナイトプールに誘われても断り、部屋に誘われても断り、まるで人付き合いを避けているようにも。トニーは胸についたチェストプレートを気にしていました。胸全体を覆う鋼鉄の鎧を見られるわけにもいかず、誰にも言えない相談できないままでいたのです。朝目覚めると毛を剃り、チェストプレートにプラグを挿して充電する。日が昇る度に思い出す十字架の重さを思えば、どれほどの苦しみか感じずにはいられません。一方、トニーはチェストプレートに込められた膨大なパワーを正義のために使おうとしていました。パワードスーツもより強力な改造を施し、人知れずギャング団やマッドサイエンティストと戦っていたのです。ある日恋人とサーカスを観覧していると、突然猛獣達が暴れ始めます。それまで市民の多くはアイアンマンの存在すら知りませんでしたが、トニーは躊躇わずパワードスーツの使用を決意します。誰よりも先頭にたち人々の盾となるアイアンマン。しかし観衆の反応は予想外なものでした。大人たちは物々しい姿に背筋を震わせ、子どもたちはアイアンマンを見て泣き声を上げたのです。
f:id:ELEKINGPIT:20221126085831j:imageアイアンマンに恐れをなす人々。誰に向けられたのか分からない悲鳴が辺りを飛び交う。

 

何故アイアンマンは恐れられたのか? 事件解決後にパートナーのマリオンへ話を聞くと、無骨な見た目が怖かったと言います。善行をしているのだからもっと派手に……例えば金色に染っていたら、きっと誰にも恐れられないはず。トニーは早速ラボへ戻り、アドバイスを実践します。こうして金色のアイアンマンが誕生したのでした。1週間後。トニーはマリオンとの連絡が取れないことに焦り、空港へ押しかけていました。なんとマリオンの住む町への飛行機は全線運行停止。車で向かおうにも道路が封鎖され町へ入ることすらできないではありませんか。異常事態が起きていることは間違いないでしょう。急いでパワードスーツを装着すると、アイアンマンはアタッチメントドリルで地中から町へ潜入します。町は異様な光景に包まれていました。真っ黒な雲に覆われ、中心には何者かの巨大な銅像が。地面から這い出たアイアンマンへは目もくれず、住民はみな銅像へ忠義の誓いを立て土下座を繰り返していました。どうやら銅像は、ガルガンタスと呼ばれる何者かを象っているようです。ならば呼び出して話を聞くまで。アイアンマンは拡張音声機能で町中へガルガンタスへの挑戦状を響かせます。現れたのは、銅像よりもうんと体格のある姿でした。
f:id:ELEKINGPIT:20221129022342j:imageアイアンマンへ襲いかかるガルガンタス。ネタンデルタール人を彷彿とさせる見た目ながら、パワードスーツすら粉々にできる力を秘めている。

 

ガルガンタスのパワーはトニーの予想を大きく上回るものでした。搦手を駆使するトリッキーな戦いでなければ、恐らく負けていたのはアイアンマンだったでしょう。それほど強力な相手に勝てたのは、パワードスーツの装着者がトニーだったからに他なりません。トニーはガルガンタスの姿を一目見たときからある違和感を覚えていました。やがて違和感は激しい攻防を繰り広げるうちに確信へと変わっていきます。ガルガンタスの目は太陽を反射する鏡のような構造になっていたのです。となれば町全体を覆う暗雲にも説明がつきます。自説を証明するかのように、まずはガルガンタスを倒そうとするトニー。超強力な電磁石でガルガンタスの周囲を覆わせると、その正体が顕になりました。ネアンデルタール人のような風貌の裏には装甲板や配線が隠されていたのです。そしてアイアンマンは次に暗雲へ向かってサーチライトを照らします。雲の陰に隠れていたのは、円盤のような未確認飛行物体。ガルガンタスは地球侵略を企む宇宙人のロボットだったのです。
f:id:ELEKINGPIT:20221129091949j:image粉々になったガルガンタス。外面からは想像もできない科学の結晶が詰め込まれていた。

 

〈トニー・スタークというヒーロー〉

アイアンマン史上第2話目となる今作。その中で私が最も驚いたのは、トニーが既にヒーロー活動を始めているという内容でした。前回、トニーは失意のままインセン教授の墓を後にします。胸に抱えた一生外せない枷に絶望感すら覚えているようでした。しかし今作ではそんな絶望感を一切感じさせないのです。それどころかヒーロー活動という点に置いては、むしろチェストプレートをポジティブに捉えているようにすら思えます。ほとんどナレーションで流されてしまったトニーの最初期のヒーロー活動。何故トニーはそれを始めようと決意したのでしょうか?

地雷の破片から心臓を守るために付けられたチェストプレート。それは重く大きな枷にも、アイアンマンを生む重要な鍵にもなりました。このチェストプレートを「呪い」と捉えるか「希望」と捉えるかは後年のライターや読者にも意見の分かれるところですが、本作では「呪い」よりも「希望」という側面が強く押し出されていたように思います。ギャング団と戦ったりマッドサイエンティストの野望を阻止したり……つまり、トニーの中で「チェストプレート(=アイアンマン)」の解釈が変わったということです。そしてそこには大きな出来事をきっかけとしてでは無く、恐らく自分の心の中で急激に変わったのでしょう。後年の「アベンジャーズX-Men:アクシス」という作品でトニーは興味深いセリフを言っています。「やるしかないんだ。その力がある者が」とは、ヒーローとして多くの犠牲を払ったワスプへ向けられた一節です。どこか諦念すら感じさせる言葉ですが、トニーの覚悟や葛藤が窺えるでしょう。恐らくトニー・スタークというヒーローの根底にはこのセリフのような精神が流れていると言えます。アイアンマンが誕生した当時はX-Menアベンジャーズもおらず、現在ほど多くのヒーローが戦ってはいませんでした。しかし悪事を企む人間は常にいます。元々正義感の強かったトニーがそれを見逃し続けるはずもなく、正しく「やるしかない」状況だったのでしょう。本来なら単なる一市民でしかないトニーですが、胸元には幸か不幸かあのゲリラを全滅させたチェストプレートとパワードスーツがあるではありませんか。「その力」は意図せず備わっていたのです。「やるしかないんだ。その力がある者が」というセリフがもし当時からトニーの源流であれば、トニーがヒーローになったのはごく自然なことだったのでしょう。