アメコミを読みたいらいとか

MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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ADAM LEGEND OF BLUE MARVEL

アメリカの歴史において、黒人と白人の差別問題は避けては通れないものです。それは例え超人であっても同じ。本作は、そんな黒人と白人の差別問題を取り扱った作品です。偉大なヒーローであってもパンチでは解決できない問題がそこにはありました。
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〈あらすじ〉

突然ニューヨークを襲う最恐最悪のヴィラン、アンチマン。アベンジャーズさえ圧倒するアンチマンが求めたのは、聞いたことのない名前のヒーローだった。ブルーマーベル。それは存在が抹消された、偉大なるヒーローだった。

 

〈「異端」のヒーロー〉

突然の出来事でした。最恐最悪のヴィラン、アンチマンのニューヨーク襲撃に、アベンジャーズは何もできません。圧倒的な力を持つアンチマンは豪語します。「ブルーマーベルでなければ私を倒すことはできない」と。セントリーさえ苦戦させる超パワーを誇るアンチマンに、アベンジャーズは手も足も出ません。このままアンチマンの好きにさせてしまうのか? そう思われた時でした。アンチマンは文字通り突然姿を消したのです。こうしてニューヨークの被害は収まったものの、アイアンマンは事件が終わっていないことを確信していました。もう1度アンチマンが現れたら、今度こそアベンジャーズは倒されてしまう。ならばアンチマンの言う通り、ブルーマーベルの力を借りるしかないでしょう。ところがブルーマーベルとは博識なヒーローたちでさえ聞いたことのない名前です、トニーはSHIELD長官の権限を使い、ブルーマーベルという名前のヒーローを徹底的に調べます。たどり着いたのは、SHIELD副官のダムダム・デュガンでした。デュガンはフューリー体制下から長年SHIELDに努め続けている大ベテラン。なにか知っていてもおかしくはありません。デュガンは言います。あのヒーローは時代が違いすぎたと。活躍した期間は短いながら、その年を代表するヒーローだったに違いない。40年代がキャプテン・アメリカならば、60年代はブルーマーベルだろうと。詳細を知りたいなら、クルーツという老人に会えとデュガンは勧めました。その老人が生きていたら、あの栄光も凋落も全て話してくれるはずだと。
f:id:ELEKINGPIT:20240416102509j:imageデュガンと話すトニー。ブルーマーベルの真実はある老人が握っていると言う。

 

ペンションのような建物に老人は住んでいました。突然の訪問を歓迎しながら、クルーツはトニーへブルーマーベルの真実を語り始めます。それは耳を塞ぎたくなるような出来事でした。1962年、公民権運動に揺れるアメリカは、偉大なるヒーローの活躍に湧いていました。その名はブルーマーベル。白いマスクに青いコスチューム、翻るマントは正にスーパーヒーローの証でしょう。圧倒的な力で侵略異星人を倒し、宿敵アンチマンとの戦いは固唾をのんで見守られていました。しかしある日のことでした。ブルーマーベルの運命を一変させる出来事が起こったのです。激闘を終え、白いマスクが一部剥がれてしまったのです。あらわになったのは、黒い肌。ブルーマーベルは黒人だった。その事実が全米に駆け回ります。ホワイトハウスの下にも情報が届きました。各地でブルーマーベルに対する暴動が起こります。黒人が白人のフリをしていた。そう解釈した国民がデモを起こしたのです。その中には、裏切られたと感じる黒人も混じっていました。ホワイトハウスもブルーマーベルを恐れていました。公民権運動に揺れるアメリカで、もしブルーマーベルが黒人の人権獲得のために暴走したら? ベトナム反戦運動の機運もあり、今国民を刺激するのは非常に危険です。このままでは国の命運がブルーマーベル1人に左右されるかもしれないでしょう。ブルーマーベル。本名アダム・ブラッシャー。優秀な科学者でもあるアダムは、アメリカ軍に所属していました。ここまで突き止めたアメリカ政府は、大統領の命で勲章を授与する代わりにブルーマーベルを辞めるよう迫ります。1962年のアメリカには、黒人ヒーローはあまりにも刺激的すぎたのです。アダムはこれを了承します。せざるを得ませんでした。こうして偉大なるヒーローは姿を消し、一般人として暮らしていくこととなったのです。
f:id:ELEKINGPIT:20240416105432j:image剥がれたマスクから全てを特定し、ヒーローをやめさせたアメリカ政府。国を愛する正義の心が、仕えたはずの国家によって折られた。

 

トニーの呼びかけに、アダムはブルーマーベルとして応えました。封じられたヒーロー活動を解禁し、ブルーマーベルは復活しようとしていたのです。ところがすぐにでもアンチマンを倒そうとするブルーマーベルをアイアンマン達は制します。ブルーマーベルとアンチマン。超強力なパワー同士がぶつかれば、ニューヨークどころかアメリカそのものを危機に陥れかねないのです。しかし久方ぶりの宿敵の登場に、ブルーマーベル自身も昂ぶっていました。ブルーマーベルは海底王国の王、ネイモアの下を訪ねます。共に迫害されてきた者同士で親しくしていたようです。ネイモアは地上人にあられもない差別を受け、海洋を汚す地上人に絶望した過去を持ちます。そんなネイモアだからこそ言います。お前のような「異端」が認められるには、敵が必要だと。確かにネイモアの意見は筋が通っているかもしれません。敵を倒すことで認められた歴史をネイモアは自身で体験していますし、だからこそ現在は海底王なのですから。しかし平和を愛するブルーマーベルにとって、その意見は認められませんでした。ただ力を振るうだけではヴィランと、アンチマンと同じになってしまいます。それでいけません。平和を愛するものとして、かつて侵略宇宙人にさえ手を伸ばしたその優しさで、ブルーマーベルはアンチマンと戦おうとします。ブルーマーベルは、アンチマンに対話という選択肢を取ろうとします。拳を交えるだけが選択肢ではないはず。その優しさこそがブルーマーベルの強さなのです。
f:id:ELEKINGPIT:20240416111412j:image対話で事件を解決しようとするブルーマーベル。しかしアンチマンの力は肥大し、一切の対話を拒否した。

 

〈超人登録法とブルーマーベル〉

異端のヒーローとして受け入れられない日々を続けてきたブルーマーベル。本作はそんなブルーマーベルの初登場作品であり、ブルーマーベルの復活を描いた作品でもあります。そんな本作が刊行されたのは、マーベルユニバースのアメリカで超人登録法が制定されている時期です。何故この時期にブルーマーベルは復活する必要があったのでしょうか? もちろん単なる偶然の可能性はあります。それ以上に強いメッセージをはらんでいる本作は、超人登録法とは関係ないと言い切れるかもしれません。しかし私は超人登録法とブルーマーベルには大きな関係があるように思えました。

超人登録法といえば、その是非を争ったシビルウォーを思い浮かべる方がほとんどでしょう。超人登録法をめぐり、アイアンマンとキャプテン・アメリカが熾烈の争いをしたのがシビルウォーです。そんなシビルウォーでは、超人登録法反対派筆頭のキャプテン・アメリカが、政府によって逮捕されるという衝撃的な展開で幕を下ろしました。戦時下から活躍し続けた偉大なるヒーローが、超人登録法に反対したという理由で、政府にとってヒーローではなくなってしまったのです。仕えたはずの国家によって、正義が成されなくなってしまう。この展開は、ブルーマーベルも同様でしょう。トニーはブルーマーベルの処遇に対して、当時の政治家達へ激怒していました。あの時代とは世界は変わったと豪語していました。しかし現在(超人登録法が制定された当時)でも、ヒーローを迫害する様は変わっていないのです。一歩間違えば、トニーは復活したブルーマーベルを逮捕する立場にあったと言えるでしょう。時代は変わってもブルーマーベルが迫害される可能性はあったのです。偉大なヒーローの正義の心を不当に逮捕してしまう可能性がこの時代にはありました。それが今回はヒーローだっただけで、有色人種に対する差別心は時代が変わっても受け継がれているのが現状でしょう。