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MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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TALES OF SUSPENSE #54〜#55

ヒーロー物の欠かせない要素に、宿敵の存在があるでしょう。キャプテン・アメリカとレッドスカル、スパイダーマンとグリーンゴブリンのように、何度も戦い続ける悪の存在がよりヒーローを魅力的に魅せるのかもしれません。そんな宿敵は当然アイアンマンシリーズでも登場しています。それがマンダリンです。MCUではアイアンマンとの直接対決が行われませんでしたが、コミックでは長年に渡る因縁の強敵。今回紹介するTALES OF SUSPENSE#54、#55はそんな2人の激闘が描かれたコミックです。
f:id:ELEKINGPIT:20220128120518j:imageTALES OF SUSPENSE #54

 

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〈あらすじ〉

ミサイル消失事件発生! ベトナムで打ち上げられたスターク社製ミサイルの全てが行方不明となった。計器不良でないと確信するトニーは、ミサイルが何者かに盗まれたと推理。ならば犯人は1人しかいないだろう。宿敵マンダリンしか……

 

〈ミサイルを追え!〉

当時は世界でもトップレベルの軍需企業だったスターク社。中でも最大顧客のペンタゴンから呼び出されたとあってはトニーも無視するわけにはいきません。恐らく重要事態が発生したに違いないとパワードスーツを持ち出し急ぎペンタゴンへ向います。待っていたのは国防長官ら軍の上層部。なんとベトナム基地のスターク社製観測用ミサイルが全て軌道上で行方不明になったと言うのです。自ら最終チェックを行ったというトニーは断じて計器不良ではないと確信しますが、軍の上層部はスターク社との契約を打ち切りそうな剣幕ではありませんか。トニーは何者かがミサイルを強奪したと推理、犯人はマンダリンだろうと考えます。
f:id:ELEKINGPIT:20220128161440j:image突如失われたスターク社製ミサイル。これが出来るのはただ1人、マンダリンしかいない。

 

当時マンダリンはアイアンマンが戦った中でも強敵中の強敵でした。優れた科学技術、超人級の格闘術、そして10の指輪から発される秘術の数々……かつてはあのアイアンマンすら敗走したほど。因縁の強敵と戦うとしても正攻法では勝てないでしょう。トニーは守衛を眠らせマンダリン城の城壁を破壊、奇襲戦法で挑みました。一方驚いたマンダリンもすぐさま応戦。互角の戦いにもつれ込みます。そして戦いの最中、トニーは自身の推理通りマンダリンがスターク社製ミサイルを強奪していた証拠をつかみました。フォースビームでミサイルを引き寄せていたのです。これにマンダリンもトニーも激怒。戯れと称し戦っていたマンダリンがついに本気を出しました。
f:id:ELEKINGPIT:20220128170559j:imageマンダリンの本気を目の当たりにするトニー。エネルギー切れが迫る中、逆転の一手はあるのか?

 

〈マンダリンとは何者なのか?〉

1964年、アメリカとソ連は冷戦状態に陥っていました。そして東南アジアのベトナムをめぐり、北ベトナム南ベトナムを通じて激しい戦争を行っている最中でした。アメリカは南ベトナム軍へ軍事顧問団と称し1000人以上の正規軍を派遣。当時のケネディ大統領が「アメリカは(南ベトナムから)撤退すべきだという人たちには同意できない」と発言するほど戦争は加速していきます。

今作が発売されたのはまさにそんな時期でした。思えばトニーがアイアンマンになったきっかけもベトナム戦争、そして今作で戦いの舞台となったマンダリン城もベトナムに位置しています(後に中国と改められますが、ここでは今作発売時点での設定を優先します)。初期のアイアンマンシリーズはベトナムを無しには語れないと言っても過言ではないのです。ではアイアンマンシリーズ最大の強敵として君臨するマンダリンを、原作者スタン・リーはどのような意図でベトナムに位置させたのでしょうか? マンダリンとはこの物語においてどのような役目を持つのでしょうか?

まずは当時のベトナム戦争の状況を見ていきましょう。アメリカが「軍事顧問団」として派遣した正規軍は主にゲリラの掃討が目的でした。密林地帯でのゲリラ戦法に大苦戦していたのです。トニーとインセン教授を捕らえたのも密林に潜む共産ゲリラとされています。そしてマンダリンが初登場したTALES OF SUSPENSE #50では、米軍がアイアンマンへ討伐を依頼した相手。つまりマンダリンはベトナム戦争で米軍相手に猛威を奮っていたことが推測されます。ベトナム戦争の戦況は凡そ米国民にもつたわっており、苦戦していたことはスタン・リーも知っていたはずです。スタン・リーはアイアンマンシリーズにおけるマンダリンを、ベトナム戦争苦戦の原因(=米軍が突破すべき壁)という立場に位置づけたことになります。

では何故アイアンマンは「ベトナム戦争苦戦の原因」を簡単に倒せないのでしょうか? 戦争の敵を痛快に倒せばいいのでは? 私はこの疑問にマンダリンvsアイアンマンの真意があるのではと考えます。トニーのアーマーと奇策ですら易々と敵わないマンダリン。枯葉剤等を用いたゲリラの掃討作戦でも変わらない戦況。どちらも「現状では埒が明かない」のです。マンダリンを「苦戦の元凶」と捉えるならば、このままでは埒が明かない=戦争反対の意が薄らやんわりとみえてくるのです。上記のケネディ大統領の発言からも分かるように、ベトナム反戦運動が勃発する前からアメリカには反戦の匂いが漂っていました。当時のベテランアメコミクリエイターは多くがWW2での従軍経験を持ち、戦争の悲惨さは目の当たりにしたはずです。大っぴらに反戦を唱えられたかは分かりませんが、スタン・リー達がこの物語に反戦の意を示したと考えても大きく飛躍し過ぎとは言えないのではないでしょうか?