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MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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ULTIMATES vol2 HOMELAND SECURITY【2022年12月の私的ベストアメコミ】

来る超人犯罪に対処するため、結成されたアルティメッツ。そのデビュー戦はハルクの暴走という斜め上の展開がなされました。「リアルな世界」を突き詰めたアルティメットユニバースならではの展開といえますが、正史世界よりも更に泥臭い人物達の魅力が光るスタートだったのは多くの読者が納得するはず。私自身、決して完璧とは言えないヒーロー達の活躍に魅了されてしまいました。第2巻となる本作は、地球侵略を企む異星人との戦いが描かれています。昔ながらの正統派なヒーローコミックの筋書きですが、果たして泥臭いヒーロー達に解決出来るのでしょうか?
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日本語版コミック

 

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〈あらすじ〉

ハルクの暴走から僅かな時を経てアルティメッツに課された任務は異星人との戦いだった。インド奥地で発見されたチタウリの死体。半世紀以上前から続く怨念。まるでフィクションのような敵に、メンバー間の不和が絶えないアルティメッツで対処できるのか?

 

〈人の域とは異なる〉

数百名の犠牲を出したハルク暴走より数週間後。SHIELDはアルティメッツへ新たなメンバーを追加しました。卓越した身体技術と銃術を持つスパイのブラック・ウィドウ、狙った的は必ず外さないホークアイ、双子のミュータントであるスカーレット・ウィッチとクイックシルバーの4名です。戦力の大幅な増強には違いないのですが、信頼しきれていないのは誰の目にも明らか。しかしフューリー長官は構わず新アルティメッツへ任務を言い渡します。チタウリと呼ばれる異星人から地球を守ること。呆気に取られるアルティメッツですがフューリー長官は続けます。チタウリは第二次大戦に全滅したと思われていた異星人です。人間への擬態能力を持つチタウリは、地球人に成りすまして歴史の影を暗躍していました。ヒトラーを裏で扇動したのもチタウリだと言われるほどです。しかし世界中で激戦となった第二次世界大戦以降誰も姿を確認出来ず、そのまま全滅したと考えられていました。そんなチタウリの死体がインド奥地で発見されたのです。チタウリはまだ地球にいる。そして我々はチタウリを見抜く術を持たない。見えざる侵略から地球を守れ。フューリー長官を疑う者まで現れるほど突拍子のない話でした。それもそのはず。昔の活劇映画の悪役のような存在が現実にいると言われて、すぐに信じる方が無理な話です。それはフューリー長官も予見していました。アルティメッツへ、見つかった本物のチタウリの死体を見せます。
f:id:ELEKINGPIT:20221222102337j:image奇怪で醜く歪んだ、おどろおどろしい人に似た何か。否が応でも異星人の存在を信じざるを得ない。

 

チタウリによる地球侵略。グロテスクな死体を目の当たりにしたアルティメッツはフューリー長官の言葉にグッと耳を傾けます。とはいえフューリー長官も姿の見えない侵略者を一から探し出せとは言いません。SHIELDの根気強い捜査の結果、チタウリはネクローシャと呼ばれる孤島に基地を構えていることが分かっていました。アルティメッツの任務は、ネクローシャの基地を攻撃しチタウリを根絶することです。ブリーフィングを終えたアルティメッツは戦力を整えた後に出撃。SHIELDの大艦隊と共に敵のアジトを目指します。一方前回以来入院中のジャネットは、病院内の異変に気付きます。いつもより少し忙しそうなナースセンターから病室へ戻るその時でした。ジャネットは自らの予感が正しかったと認識します。看護師が拳銃で背後を狙っていたのです。すぐさま病院を脱したジャネットは、SHIELD本部トライスケリオンへ駆けつけ、アルティメッツへ事件を伝えようとしました。しかし既に手遅れ。SHIELD高官に擬態したチタウリ達がトライスケリオンを占拠しており、ジャネットは瞬く間に捕らえられてしまいます。アルティメッツや有力なSHIELD隊員をネクローシャへ誘き出した今こそが最高のチャンスだったのです。
f:id:ELEKINGPIT:20221223230921j:imageワスプの背後を狙うチタウリ。チタウリの侵攻は既に懐深くまで浸透していた。

 

同刻。アルティメッツは人気のないネクローシャに到着していました。まるで最初から何も無かったかのような静けさに包まれ、孤島の中心を巨大な軍事基地がジッと構えているのみです。困惑するアルティメッツとフューリー長官。こうなればチタウリが地球侵攻を企んでいた証拠を探し回るしかありません。爆弾発見に遅れたのは、島を包んでいた異様すぎる静寂のせいでしょうか。巨大すぎる爆弾は既にカウントダウンを始めており、生ける伝説と呼ばれたキャップですら声を上げることしか出来ませんでした。瞬間、静寂を塗り替えるように爆音と閃光が轟きました。ここでネクローシャを記録する映像が途切れます。絶体絶命のワスプに見せ付けられたアルティメッツ最後の記録。チタウリ司令官のクライザーは、事実上の勝利宣言をした後に最終目標である人類融和作戦を始動しようとします。ところがここで、チタウリ艦隊が別の異星人との戦争に大敗したとの連絡が。人類融和作戦を中止し、速やかなる地球征服を行うよう命令が下されます。速やかなる地球征服。即ち、予備プランとして用意されていた太陽系破壊爆弾の起動です。起動には時間がかかりますが、成功さえしてしまえば揺るがない完全勝利が成就されます。ならば躊躇う余地がどこにあるのでしょうか? 迷いなく起動スイッチへ伸ばされた手は、しかしトライスケリオン全体に轟いた爆音で止まります。アルティメッツが現れたのです。
f:id:ELEKINGPIT:20221223233800j:image暗雲を突き破る光と共に現れたアルティメッツ。誰よりも勝利へ執着する決死隊がチタウリの謀略に立ち向かう。

 

第二次世界大戦から続く因縁、地球の命運をかけた決戦。全ての決着はアルティメッツに託されました。襲いかかるはチタウリの大艦隊と地球人に擬態したチタウリ軍、起動された太陽系破壊爆弾です。絶対に敗北が許されない状況、SHIELDは戦略兵器としてハルクを投入。完全に制御出来てはいないものの、敵戦力を削ぐには充分すぎる成果をあげます。諦めの声を上げた者もいました。呆気に取られる者もいました。しかし最後には誰もがアルティメッツの勝利を信じ、1秒の隙も与えず戦い続けます。例え奇跡と歴史が語っても、チタウリの敗北は必然だったと読者の皆様は確信することでしょう。チタウリ艦隊の撃沈、殲滅、太陽系破壊爆弾の処理、全てが敵の作戦を上回っていました。地球を巡る戦いの行方は、アルティメッツに軍配に上がりました。
f:id:ELEKINGPIT:20221224000242j:image勝利を称え合うアルティメッツ。誰もが諦めず敵に立ち向かった結果だった。

〈究極の人間〉

異星人との全面対決を描いた本作。超人の誕生から対立まで描いた前回と並び、「人の域にいない」敵とアルティメッツは戦いました。しかし前回に比べ、本作はヒーローものの中でも王道中の王道を貫くストーリーだったと言えるでしょう(メンバー間の対立はありましたが)。キック・アスシビルウォーなど、時に露悪的とさえ言われる人間模様を描くマーク・ミラー氏はアルティメッツを通して何を描こうとしていたのでしょうか?

本作も前回も、露悪趣味とも言える描写は数え切れないほど登場していました。従来のヒーローコミックであれば(例外を除き)考えられないようなダーティなヒーロー達に拒否感を示してしまう方も少なくはありません。その果てが前回のハルク暴走でしょう。余すことなく描かれた人間性とSFチックな世界観の融合は流石としか言いようがありませんが、一方あのまま物語が終わってしまえばより賛否両論な評価を受けていたことでしょう。アルティメッツとは、ヒーローの名を借りた「嫌な人間」の集まりとなってしまうのです。しかし本作の存在がそれを否定します。日本に限らず人間の悪性を「リアル」と称する向きは少なくありません。しかしそれだけがリアルではないと多くの方々が理解しているはず。悪性だけが人間の本性では無いのです。本作ではアルティメッツの「善性」が描かれたように思います。当然今作にもメンバー間のイザコザはありましたが、嫌な人間ばかりであれば今作のような勝利ななかったはず。良いところも悪いところもあわせて泥臭いヒーローに魅了された方は多いでしょう。