アメコミを読みたいらいとか

MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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MS.MARVEL vol1 NO NORMAL

MARVELに登場するティーンヒーローといえば、今や必ず名前が上がると言っていいほど人気キャラクターとなったカマラ・カーン。そのアイデンティティから多くの話題を呼び、そのストーリーで多くの人気を獲得しました。牧歌的なアートワークが物語の雰囲気をより引き出していますが、ヒーローものとして苦悩や人間関係もきっちり描かれており、非常に手堅い印象を受けます。本作をきっかけに読み始めるのにもおすすめな1作。日本語訳も発売されていますので、これを機会にアメコミを読み始めるのもいかがでしょうか?
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日本語版コミック

 

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〈あらすじ〉

アベンジャーズオタクのカマラ・カーンは、ある日奇妙な霧に包まれスーパーパワーを身につけた。悩み抜きながら憧れを目指すカマラが見つけ出した自分だけのヒーローとは?

 

〈大きくなれ!〉

カマラ・カーンが住んでいたのは、マンハッタンから20kmほど離れた町、ニュージャージーでした。ムスリムのカマラは、肉の匂いを嗅ぐ、性別で区切る教会のパーテーションに愚痴をこぼすなど小さな反抗を繰り返す日々。そんな騒がしい平穏を激変する出来事が起きました。ある日、両親の反対を無視してこっそり夜のパーティへ出た時のことです。友人にはからかわれ、幼馴染のブルーノには親のような説教を言われ、カマラは夜道を1人歩いていました。辺りには不思議な霧が漂う奇妙な夜。力が抜けるような感覚に襲われながら、次に瞼を開けた瞬間には驚くべき光景が広がっていました。なんと目の前にはキャプテンマーベルら長年憧れてきたヒーローがいるではありませんか。どうやらこれは夢、幻覚のよう。キャプテンマーベルは問いかけます。何になりたいのか? カマラにとっては言うまでもないことでしょう。長いブロンド、イカしたブーツ、ずっと夢見てきた姿。それは決して簡単な道ではありません。それでも、カマラはキャプテンマーベルのようになりたいと答えました。1人を殺すのは全員を殺すことと同じ。1人を助けるのは全人類を助けるのと同じ。父から聞かされてきたコーランの一節を思い出し、カマラは新たなヒーローとして立ち上がることになりました。
f:id:ELEKINGPIT:20230717143620j:image目が覚めるとかつてのキャロルと同じ姿になったカマラ。新ヒーローの産声が上がる瞬間だった。

 

霧の夜に初めての人助けをしてから数日後、カマラへ再びそのスーパーパワーを使う時がやってきます。ブルーノのアルバイト先、サークルQに強盗が現れたのです。もう1度キャプテンマーベルとして立ち向かうカマラ。勇敢に戦いますが、経験の少なさから捕り逃してしまいました。聞き覚えのある声にカマラは驚きます。強盗はブルーノの弟、ヴィクなのです。ブルーノに正体を明かしたカマラは、ヴィクを助けるため動き出します。どうやらヴィクは最近インベンターと呼ばれる怪しい組織とつるんでいたよう。ならばヴィクをインベンターから連れ出す必要があるでしょう。カマラはブルーノの制止を振り切りインベンターのアジトへ向かいます。今度は自作のコスチュームをまとい、新たなMs.マーベルとしてインベンターにたちはだかるカマラ。アジトには失敗の咎を責められたヴィクが拘束されていました。ここまでは順調。あとは助け出すのみ。ところがインベンターのアジトは警備ロボットが多く配備されています。更にはインベンターのメンバーと遭遇。果敢に挑もうとしますが、敗れたカマラは撤退せざるを得ませんでした。
f:id:ELEKINGPIT:20230717222812j:image敵を前に逃げるカマラ。困難を解決するのは、「ヒーロー」という肩書きではないのだ。

 

事実上の初陣を敗北で終えてしまったカマラ。その心境を思うと私たちまで胸が締め付けられそうです。しかしそんなカマラを再び奮い立たさたのは、両親の言葉でした。カマラの父アブーは事情を多くは聞かず、しかしただ愛のある言葉を送ります。カマラの名前の由来は、「完璧」という意味の言葉だと。若者は何者かになろうと必死に生きます。それが自分の憧れの姿なのか、目指したい姿なのかは人それぞれでしょう。しかしカマラを愛するアブーはそうなって欲しくないと言います。カマラはカマラのままで完璧なのだから、何者かになろうとする必要はないと。その言葉を、カマラは頭の中で反芻させていました。本当に最初から完璧ならどんなに良かっただろうか。今の自分だけではヴィクを助けることは出来ない。今の自分にできるベストを尽くさない限り。カマラはブルーノに協力を求め、能力の訓練に努めます。そしてコスチュームも能力に合わせて改良。気持ちだけでは勝てないのなら、相応の備えと覚悟があれば良いのです。数日後、カマラは再びインベンターのアジトへ乗り込みます。
f:id:ELEKINGPIT:20230717233701j:imageヴィクを助け出すため、もう1度勇気を振り絞ったカマラ。こうしてヒーローは誕生した。

 

〈普通じゃないから〉

カマラがMs.マーベルとしてデビューした記念すべき第1巻である本作。ヒーローとしての精神を順調に築きつつありますが、クラシックなヒーローとは明確に違うオリジンであることに気付いた方も多いのではないでしょうか? かつてティーンヒーローの代名詞だったスパイダーマンは、ヒーローになるきっかけがベンおじさんの死でした。アイアンマンはインセン教授を失っていますし、現代に甦ったキャップもバッキーが目の前で死んだ(と思われた)記憶に悩まされています。かつてのヒーローは、その精神とともに重い十字架を背負っているのです。しかしカマラにはそのような悲しみも十字架もありません。本作の雰囲気はどちらかというと牧歌的ですし、決して悲壮感のあるオリジンではありませんでした。しかしだからこそカマラは悩みます。家族の愛を感じ取り、それを少しでも還元しようとする姿。しかし時にそれが自分を縛っているようにも思え、小さな反抗を日々試みる。どこにでもいるティーンエイジャーそのものです。しかしそれでいいのか。偉大すぎるヒーロー達が多く存在するこの世界で、等身大のティーンエイジャーのままでいいのか。今作だけでもカマラは何度も変わろうと試み、Ms.マーベルへと行き着いています。カマラは、白人でもキリシタンでもありません。(ステレオタイプな)「普通」とは程遠い存在でしょう。その上誰もが共感するような等身大のティーンエイジャーがヒーローとして戦うなんて、とても「普通」ではありません。「普通」でないからカマラは変わる必要があるのか? 確かにカマラは「普通」ではありません。しかし勇気を振り絞ったのはカマラ、覚悟を決めたのもカマラ、行動を起こしたのもカマラです。等身大のティーンエイジャーが動いたからこそ、今作には大きなエンパワーメントを感じました。「普通」じゃないからこそ、誰もがヒーローになれることをカマラが証明したのです。ヒーローは決して困難な道ではありません。しかしこれほどの勇気と覚悟を行動に移せるカマラなら、きっと大きなヒーローへと変わることができるでしょう。