アメコミを読みたいらいとか

MARVELやSTAR WARSなどのアメコミを、ネタバレ有りで感想を書くブログです。更新頻度は気分次第。他にも読みたいものを気まぐれに

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ULTIMATE COMICS THOR【2024年3月私的ベストアメコミ】

アルティメットユニバースの中でも最も謎の多い人物の1人に、ソーが挙げられるでしょう。自らを北欧神話の雷神と語るソーですが、自分を神と思い込んでる妄人とも考えられています。そんなソーの過去が掘り下げられるのが本作、ULTIMATE COMICS THORです。アルティメッツ最強の超人は、雷をも操る雷神か? それとも精神的な病を患う病人か? ソーを語るには外せない1冊です。
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〈あらすじ〉

ヨーロッパの超人委員会は頭を悩ませていた。眼の前にいる人物が、狂人かどうか決めかねていたのだ。その人物はルーン文字北欧神話を書き、自らを雷神ソーというのだから。

 

〈槌のない神〉

ブラドック親子は不可解な疑問にぶつかっていました。ヨーロッパ最大の課題の1つである、ヨーロッパ産超人を誕生させる計画の根幹を担う人物が精神病の可能性があるのです。その人物はヨーロッパ産超人の第1候補でした。しかしその人物は、部屋の中にルーン文字北欧神話の説話を書くようになり、挙句の果てには自らを雷神ソーと自称するのです。これは神経衰弱の妄言では? 調査の末、2人は専門家のドナルド・ブレイク医師を呼ぶことにしました。ところがドナルド・ブレイク医師の診察によると、妄言と思われるものを話している間も脳は正常な動きを見せています。それどころか、間違いなく記憶を司る領域が活発になっているのです。この動きは人が何かを思い出すものと同じ。ではこの妄言は何だというのでしょうか? 舞台は移って1939年、ナチスのバロン・ジモは、とある報告を受けていました。ルーン文字で書かれた石を24個見つけたというのです。この神聖な石達は、適切な使い方をするとビフロスト、虹の橋をかけることができるでしょう。バロン・ジモは自身の兵力を大幅に増員するよう命令を出します。この兵力を率いて自身はとある石碑の前にまで来ていました。この石碑を用いれば、儀式を始めることができるのです。神聖な石と石碑が光り始め、バロン・ジモは手形の上に掌をそっと乗せます。その瞬間、周囲が大きく光り、氷の巨人群が現れました。バロン・ジモはこれがヨトゥンヘイムと呼ばれる次元に住む霜の巨人であることを知っていました。
f:id:ELEKINGPIT:20240327095644j:imageバロン・ジモが呼び出した霜の巨人。その計画は恐るべきものだった。

 

霜の巨人はバロン・ジモの軍隊を見て鼻で笑います。ちっぽけな人間と鉄の車両。それが何だというのか? そんなものよりもずっと恐ろしい敵と我々は幾星霜も戦ってきた。威嚇にもなりはしない。もちろんバロン・ジモもそれを分かっているのでしょう。バロン・ジモはある話を霜の巨人たちへ持ちかけます。神殺しです。ヨトゥンヘイムはかつて神々の住むアスガルドへ戦いを仕掛け、敗れた過去があります。そんな力が人間と戦車だけであるのでしょうか? 虹の橋ビフロストを守る千里眼の持ち主、ヘイムダルを見つけた霜の巨人とバロン・ジモ率いるドイツ軍。霜の巨人はヘイムダルの圧倒的な戦闘力の前に敗れてしまいますが、ジモは弓矢を使って一矢でヘイムダルの頭を射抜きます。そして紫色のマスクを脱ぎ捨てました。バロン・ジモの正体は、偽りと智略の神ロキだったのです。バロン・ジモが北欧神話の儀式に何故か詳しかった理由も、その正体がロキであったことで説明がつくでしょう。かつてウォリアーズ・スリーと呼ばれたオーディンの子ども3戦士の1人だったロキは、寡黙な母の願いを叶えるために幾星霜もの夜を重ねて遂に決意したのです。アスガルドを攻め神殺しを実行することを。ヘイムダルの血をドイツ軍に飲ませることで強化、神々の住むアスガルドへ攻め入ります。これがこの世界のラグナロクとなりました。全能神オーディンはこの戦いで死亡し、世界樹は燃やされ、生き残った神々もミッドガルドへ力を失い放り出されます。ヨーロッパ産超人を生み出す計画の被検体となったソーは、ドナルド・ブレイク医師の正体に気付きます。ウォリアーズ・スリー最後の1人、ボールダーです。ヨーロッパ産超人計画はソーの妄言に託されました。雷神と信じてやまないソーのために天候を操る能力が勘案され、ソー自身のアイデアでハンマーが作られます。
f:id:ELEKINGPIT:20240327103431j:image自らの武器をハンマーと提案するソー。失われたムジョルニアの代わりか、それとも妄言か。

 

〈人か神か〉

本作では、アルティメッツに合流するまでのソーの過去が語られました。1939年以前の過去もたっぷりと描かれており、本作を持ってしてソーが神であると言ってもいいでしょう。しかし、これら全てをソーの妄言、妄想と捉えることもできます。ソーは単なる精神疾患患者で、本作で描かれた内容がその精神疾患による想像という考え方です。ではソーは人か、神か。結局どちらなのでしょうか? 

神は死んだ。という文句は非常に有名です。科学技術の発達でこの世の成り立ちと仕組みが解明され、聖書が歴史書としての役割を終えたのはつい最近の話です。私達は当たり前のように地球の成り立ちが聖書や神話のそれとは違うことを知っています。故に聖書や神話に描かれた歴史は、「別のもの」として見る向きがあるでしょう。しかし神話をそのまま人類と地球の歴史と考えていた時代はたしかにあります。神話と歴史を同一視しないのは現代人だけなのです。信仰心によってその存在を成り立たせていた神は、信仰心が失われた現代において存在する意味を失ってしまいます。だから神は死んだのです。そんな現代を皮肉るようにアルティメットユニバースにソーは現れました。ソーは自らを神と名乗ります。当然その話は誰にも信じられず、神のような能力は人工的に作られたものです。それはまるで、信仰心を失った神と言ってもいいかもしれません。北欧神話を研究している人はいても、本心から信仰している人は少ないでしょう。失われた信仰心を「妄言」と皮肉るキャラクターがソーなのです。しかしアルティメットユニバースには現代の神話があります。それがヒーローです。信仰心を失いハンマーもなくしたソーを再び雷神にしたのは、紛れもなくヒーローという新たな神話への信仰でしょう。人は最後には神に祈ります。時代の変化によって、その神の姿が具体的に描けなくなっただけで、「神そのもの」に対する信仰心を失ったわけではありません。その姿がヒーローに変化したのが、マーベルユニバースでありアルティメットユニバースなのです。